スイス・コミックアート展に行ってきました

シンポジウム目当てで神奈川県は川崎市民ミュージアムで催されている「スイス・コミックアート展」に行ってきましたので、簡単にご報告や感想など。
まず展覧会なんですが、メインの展示として、スイスの漫画家12人と日本の漫画家5人について、壁には「時間」をテーマにした描き下ろしの1枚ものの作品を展示し、ショーケースには単行本を広げて並べていました。スイス人作家の作風はといえば、シンプルで抽象的なものから線を多く書き込んだシビアなものまでさまざま。描き下ろしの作品は外国人に見せることを前提としているためか、どれもセリフはなく、絵に力を込めているようでした。しかし、これらのスイスの作家陣(及びしりあがり寿氏)の絵は良く見ると原画じゃなくて印刷っぽい……何だか大物ミュージシャンが来日してTV番組で口パクで歌ってるのに気づいた時のような、しんみりした気持ちになってしまいました。
それにしても正直なところ、一枚の書き下ろしと単行本の見開きページだけで未知の漫画家の世界を紹介するのは厳しいと感じました。情報ばかりが先行すると、読んで楽しむという漫画の本来の楽しみからは遠ざかってしまいそうで。とりあえず有名作家の名前と作風、そしてパネル展示からスイスの漫画の歴史や現在の状況を何となくつかめたかな…?今後、何かしら読む時の参考にできればと思いました。展示作家の中では、Cosey(コゼイ)氏の作品が良かったです。この方はアングレーム国際BDフェスティバルで1982年に最優秀アルバム賞を受賞するなど(→こちら)、結構ベテランの方なのですね。
次にシンポジウム。こちらのリンク先には午後2時からと書いてあったので間違えそうになりましたが(トップページには1時からと書いてありましたが)、他にそのような方はいらっしゃらなかったでしょうか。ネットではあまり話題になっていなかったので空いているかと思いきや、補助椅子が沢山必要になる位の盛況ぶりでした。名だたる漫画評論家の方々や漫画研究を志す学生さんが大勢いらっしゃっていたようでした。
プログラムはマンガ学会のこちらのページをご参照下さい。中でもとりわけ、スイスのドイツ語圏の漫画雑誌「シュトラパツィーン」編集部のクリスティアン・ガッサー氏のお話が興味深かったです。(『シュトラパツィーン』誌のサイトは、こちらやこちらで良いのかな…)私はてっきり、スイスは公用語が4つに分かれているから同じ出版物もも4種類刷らなきゃいけないのかと思っていたのですが、決してそんなことはなくて、言葉が違っていれば文化的にも分断されてしまうのですね。フランス語圏では、ジュネーブがコミック発祥の地(ロドルフ・テップフェールRodolphe Töpffer(1799-1846)による『版画文学"histoire en estampes"』と呼ばれる絵物語)にもかかわらず、本格的なスイス人作家の活躍はベルギーにおけるDerib(デリブ)氏やその弟子Cosey氏以降であるとのこと。一方、ドイツ語圏では従来コミック文化は無いも同然だったのが、1984年にチューリヒで「シュトラパツィーン」誌が創刊し、表現主義的・個性的・実験的なコミックが掲載されてきたとのこと。そして、こうした独・仏双方の言語圏の作家は近年、展覧会や出版による交流が図られているものの、翻訳のコスト等問題点も存在するとのことでした。やっぱり言葉の壁は大きいのですね。
その他、森田直子氏によるテップフェールの「版画文学」における「観相学」の影響や近年のコミック作家の顔の描写に関する話、神尾達之氏による、戦後日本のマンガに見られる死の表現がもたらす記号世界への破綻や最近のマンガに目立つ傾向についての考察等、普段あまり耳にしないアカデミックな話が聞けて、貴重な一日でした。
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