ベルギー

2012年3月12日 (月)

「CARTOON」のサイトから、ヨーロッパのアニメ映画情報を

 twitterで、スペインアニメ映画「Arrugas(皺、パコ・ロカの漫画のアニメ化、→当ブログ2011年12月 5日付け記事で取り上げました)」のプロデューサー、Manuel Cristóbal(マヌエル・クリストバル、@manuxcristobal)氏をフォローしていたところ、先日フランスはリヨンで開かれた「Cartoon Movie」という見本市で「Producer of the Year」を受賞したとのこと。おめでとうございます!(→YouTubeのインタビュー映像)そして、このイベントの公式サイトを見るとヨーロッパのアニメ映画の世界が見えてくるので、ご報告する次第です。(そして、東京アニメフェアにいらっしゃるの?誰か是非、日本で上映して欲しいです。)


▼CARTOON - European Association of Animation Film : Home page.
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 「CARTOON」というのは、ヨーロッパのアニメ産業をサポートする非営利団体で、4つの部門に分かれていて、今回取り上げる「Cartoon Movie」は、そのひとつ。単なる見本市やお祭りではなく、長編映画のプロデューサーが、自身のプロジェクトを進めるにあたって、資金調達を早める目的や、国境を越えたパートナーや国際的な配給会社や販売代理店を見つけるための機会を得る場となっているそうです。

 そして、2012年の選考作品が「Selected projects in 2012」に一覧があります。「Completed films」「Films in production」「Projects in development」「Projects in concept」の4つの区分けがあり、この一覧が結構、面白いのです。サムネイル画像にマウスポインタをあてると大きな画像がポップアップ表示されますし、制作会社のリンクをクリックすると、更に詳しい情報も。そこで、気になった作品をピックアップしてご紹介します。


▼ZARAFA-LEFILM.COM
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 この作品の監督である、Rémi Bezançon(レミ・ブザンソン)とJean-Christophe Lie(ジャン=クリストフ・リー)が「Directors of the Year」を受賞したとのこと。ovninavi.comに日本語による紹介が。1826年、エジプトからシャルル10世への贈り物としてフランスに渡ったキリンの数奇な運命からインスピレーションを受け、10歳の黒人少年と孤児キリンの友情物語に仕立げたのが本作、とのことです。

▼Le tableau - Le film
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  画家が多少なりとも「描き終えた」カンバスに描かれた未完成の絵には、3種類の人物が暮らしている。Toupin達は自分が優位に立つべく反乱を起こす。彼らの創造主のみが調和を取り戻せると確信して、RamoとLolaとPlumeは捜し物を見つけるために、絵の世界から脱出することに成功する(…合ってる?)。何か塗りが雑だなと思ったのは、そういう訳なのですね。色遣いが綺麗で良い雰囲気をしています。

▼Le Magasin des suicides
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 英題「The Suicide Shop」。2012年9月26日公開で、監督がパトリス・ルコント。…って、昔は漫画を描いていたのですね(→日本語wikipedia)。原作の小説は『ようこそ、自殺用品専門店へ』という題で邦訳も出ているとのこと(参考:業務日誌)。


 その他に気になったプロジェクトは「UNE VIE DE CHAT」の監督による「INSAISISSABLE (英題:PHANTOM BOY)や、エンキ・ビラルによる「Animal’Z(→制作会社の紹介ページ)」や、アルチュール・ド・パンスによる「Zombillenium」などなど。


 また、過去の出展作品で面白そうなものを発見。

▼GAZATO FILMS PRODUCTIONS
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 「11」というタイトルで、画像はパイロット動画より(→こちら)。第一次大戦を描く、11の物語。停戦の日である1918年11月11日11時にちなんでいるそうです。グラフィック担当の中には日本で「夜の蝶」というアニメーション作品集のDVDが出ているラウル・セルヴェや、邦訳が出ているBD『イビクス』のパスカル・ラバテや、昔モーニングに作品が載っていた(と、早稲田大学の2009年度の講演で伺った)エドモン・ボードワンの名前が(※追記有り)。いつ公開なのか分かりませんが、完成が楽しみです。

 果たしてこれらの映画、日本で上映してくれるでしょうか。フランス映画祭あたりで是非是非。


(※3月16日追記)
 twitterで教えていただきました。@kunitatitamami氏邦訳海外コミックリストの中の方)によりますと、ボードァン著『旅 (デラックスコミックス)』という単行本が出ているとのことでした。有り難うございました!そして失礼しました…。

(最終更新日:3月16日)

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2010年7月10日 (土)

Blake et Mortimer : Les 3 formules du professur satō (dessin animé)

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 dailymotionに動画がupされているのですが、字幕(仏英)や吹き替え(仏英伊葡)目当てでDVDを買っちゃいました。amazon.frのマケプレで新品が安かったし今ユーロ安だし。

●Blake et Mortimer公式サイト
 「Blake et Mortimer(ブレイク&モルティメール…読み仮名はアニメのセリフに従いました)」は、もともとはEdgar-Pierre Jacobs(エドガール・ピエール・ジャコブス)により、1948年に「TINTIN(タンタン)」誌に連載が始ったベルギーの漫画(参考→こちら)。その死後も、様々なシナリオライターと作画家によって書き継がれています。「Les 3 formules du professur satō(サトウ教授の3つの数式)」は執筆が中断し、作者の死後にBob DE MOOR(ボブ・ド・モール)によって完成された作品だそうです。

 「Blake et Mortimer」の基本的なストーリーは、英国MI5の将校Blake(キャプテン・ブレイク)とMortimer(科学者モルティメール教授)が、Olrik(とある帝国のオルリック大佐)の陰謀を阻止するというもの。ネットの紹介を見ていると、メカデザインが秀逸で、サスペンスとSFの要素が盛り込まれているようです。この回では、サイボーグ工学のSato(サトウ教授)と、サイボーグを量産するための数式が記録されたマイクロフィルムが狙われています。1971年の作品ということで、ちょうど日本が東京オリンピック(1964)や大阪万博(1972)で注目されていた頃。アニメの中では、ところどころ正確でところどころ微妙な日本描写が味わい深く、原作のBDのアルバムもいつか入手してみたくなります(ただ、このシリーズ、原作は文字がびっしりで読むのに苦労しそうで、敷居が高いです…)。

 アニメは97年の仏加合作。原作が全2冊のアルバムであることから、相当はしょって描かれているものと思われます。つっこみどころは山盛りなのですが、原作もこんなにつっこみどころ満載なのでしょうか……。

▼こちらは主要3人物。Blake、Mortimer、Olrik
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▼合っていても間違っている漢字の使い方。なぜ博物館の入り口に「純正トナー」と…?
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▼日本観光の見所はなんといっても歌舞伎!ここでひともんちゃく起きます。
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▼女の人の、とりわけ着物の描写がめちゃくちゃです。
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▼夜の銀座に竜が舞い降りて大パニック!「GINZA」と書いてあるから銀座と分かりますが、円筒形のネオンがいかにも一昔前の銀座っぽいです。

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しかし、なんといっても、このお話の中の最大の目玉は、



▼「Le Samouraï(ル・サムライ)」!
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サトウ教授が開発したマニュピレーター付き飛行艇です。「マヒサセロ」と言えば体を麻痺させる光線を発しますし、「ヤサシイ」と言えばやさしくしてくれます。

 日本の伝統と科学技術をヨーロッパ人の目から見て生まれたこの作品。作者の公式サイトには「Le Samouraï」のデザイン画やサトウ教授の別荘(アニメでは『ウミノイエ』って呼ばれていた…)のデザイン画も載っていますよ(→こちら)。


なお、dailymotionのアドレスは以下の通り。よかったら、一緒につっこんではくれませんでしょうか。基本的にはkこのシリーズは格好いいSFサスペンスの筈なのですが、このアニメだけはどうしてもつっこまずにはいられないのは日本人のさがとしか言いようがないですよね……。
●その1
●その2
●その3

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2010年6月19日 (土)

「Spirou et Fantasio」次のメインシリーズは…

 ベルギー~フランスで長く描き継がれている「Spirou et Fantasio(スピルー&ファンタジオ)」。当ブログでも頻繁に取り上げてきました(→ブログ内検索)。日本を舞台にしたり現地で何かと物議を醸したりしていた作画:Munuera(ムヌエラ)&シナリオ:Morvan(モルヴァン)のコンビに代わる、次世代のコンビと新作が発表されました。
 今度は、作画:Yoann(ヨアン)&シナリオ:Vehlmann(ヴェルマン)のコンビです。今回のアルバムのタイトルは「Alerte aux Zorkons(ゾルコン達を警戒せよ)」。何やらChampignac(シャンピニャック伯爵)が危険にさらされている模様です。「Zorkons(ゾルコン達)」が何者なのか、今のところ分からないのですが、とりあえず、悪役の名前には頭文字に「Z」がつくのが、このシリーズのお約束です。

▼Spirou et Fantasio
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「Voir les bandes-annonces(予告編を見る)」をクリックすると、特設ページが開きます。

▼Spirou & Fantasio 51 - Alerte aux Zorkons -
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 「LIRE UN EXTRAIT(抜粋を読む)」をクリックすると、最初の5ページが閲覧できます。また、「?」マークがついているのが予告編の動画のアイコンなのですが、このページの動画は再生するのに時間がかかるので、動画を見るならdailymotionの「spirou」誌のページの方が便利でしょう。

▼SPIROU - デイリーモーションのjournaldeSPIROU
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 他にも多くの動画が登録されていますが「Spirou & Fantasio 51.」のタイトルのついたものを見つけて下さい。全部で4種類あります(うち一つは3Dメガネ対応)


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 それにしても、スピルーは可愛くなくなっちゃったし(でも熱血少年漫画っぽいところには好感が持てます)、ファンタジオはオヤジくさくなっちゃったし(基本に立ち返ったとも言えそうですが……、それにしても、ネクタイをはずして頭にハチマキみたいにして巻く風習は仏語圏にもあるのでしょうか)、果たしてこの新作、今時のお子様がたに受けるのか、そして、未曾有のユーロ圏経済危機の中、雑誌「spirou」はどこまで持ちこたえられるのか、今後の成り行きが注目されます。

(6月22日、一部加筆修正)

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2009年8月18日 (火)

LUCKY LUKE Le film TOUS À L'OUEST

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LUCKY LUKE Le film TOUS À L'OUEST(ラッキー・ルーク映画版 皆で西部へ)
原作:Morris(モリス) & Goscinny(ゴシニ)
監督:Olivier Jean-Marie(オリビエ・ジャン=マリー)
(2007年フランス公開)
●公式サイト

《あらすじ》
 1855年のニューヨーク。Les Dalton(ダルトン4兄弟)が裁判にかけられた。Lucky Luke(ラッキー・ルーク)が証人として出廷しようとするが、入れ違いに脱走される。Dalton兄弟はNY中の銀行を強盗しまくり、得た金袋をセントラルパーク予定地の空き地に止めてあった馬車の荷台に隠す。金袋を回収しようと空き地に戻ると、そこは移民たちの馬車が集結しているため、どこに隠したか分からなくなった上に、Lucky Lukeが待ち構えていた。Lucky LukeはDalton兄弟を収監しようとするが、そこに居合わせた移民たちから、カリフォルニアへ連れて行ってもらえないかと頼まれる。移民たちはカリフォルニアの土地を購入したものの、80日間のうちにたどり着かないとキャンセルされてしまうという。しかも代金は前払いしている。何やら怪しい話なのだが、売主のCrook(クルック)と執行人Bartelby(バートルビー)立会いのもと、80日間がスタートした。移民たちは出身国も様々で、各々の馬車も個性的。Lucky Lukeはカリフォルニアに到着してからDalton兄弟を収監しようと考え、Dalton兄弟は道中に金袋を見つけ出そうと画策し、CrookとBartelbyはこっそりと行く手を妨害し、行く手には何かとアクシデントが到来し……。
(アメリカ西部劇につき、人名は英語風表記にしました。でも、映画の中でLucky Lukeのことを皆、口をとんがらせて「リュッキー・リュック」って呼ぶので、ラッキー・ルークと表記するのは少々気が引けました…。)

《感想など》
 有名な西部劇バンド・デシネのアニメ映画化。過去に2回TVアニメ化されて、youtubeやdailymotionでよく見かけます。原作のシリーズは過去にアルバムが3冊翻訳されていて、東京なら多摩の都立図書館で閲覧できます。前回のエントリで取り上げた、Moebius(メビウス)が語るところの「子ども向けのBD」の有名作であり、しかも翻訳もされたというのに日本であまり人気が出なかったのは……、ひとえに読みづらいからかなぁ。単調なコマ割に絵とエピソードをみっしりと盛り込んで、48ページでも日本のマンガに換算すると全2巻くらいのボリュームはありそうな気がして、読んでて結構疲れました。ただ、翻訳されていたのは古い作品ばかりだったので、後の作品だともう少し、読み口も軽くなっているかも知れません
 翻訳とアニメDVDに共通して感じたのは、主人公のLucky Lukeは見た目はキャラが立っているのだけど、あまり自我を感じさせないというところ。個性的な登場人物たちを相手に、正義感があって面倒見が良くて気の良い人というだけで、少々物足りない気がしました。個人的には『Spirou et Fantasio(スピルー&ファンタジオ)』のSpirouみたいだなぁと思ったものでした。
 アニメ映画は『La Caravane』という原作のアルバムがあるそうなのですが、そちらは未読。アニメ化にあたっては、子供向けということで、喫煙と飲酒はしないようにしているみたいです。お酒の代わりにレモネードを飲んでいます。でも、いわゆる“インディアン”や各移民の描写は時に戯画化が類型的過ぎて、政治的には正しくないかも…。でも、ギャグ漫画に対してあまり固いことは言いにくいかも…。とりあえず、日本人が出てこなくて良かったと身勝手ながら思ったものでした。また、前回のエントリで取り上げた、Moebiusが語るところの、フランス人にとっての西部劇やアメリカというものがどのようなものかがうかがえて興味深かったです。
 このアニメ映画の監督は『オギー&コックローチ』と同じ人なので、随所に盛り込んだドタバタギャグは、この人ならではと思いました。特に最初と最後の追跡劇が圧巻。反面、全編通して見るのはちょっと疲れるのですが(言葉の問題もありますし)、DVDなら少しずつ見ることもできるから、盛りだくさんなのは良いことかも、とも思いました。本編には聴覚障害者用の字幕が付いているので、ときどき再生を止めて辞書を引いたりしました。辞書を引いてて思うのは、フランス語って聞き取りがやっぱり難しい。オーディオコメンタリーやメイキング等の特典も盛りだくさんなのですが、これらを楽しめる日は果たして来るのでしょうか……(泣)。

(最終更新日:8月22日)

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2009年3月26日 (木)

SPIROU le journal d'un ingénu

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UNE AVENTURE DE SPIROU ET FANTASIO PAR ÉMILE BRAVO
(エミール・ブラヴォーによる、スピルー&ファンタジオの冒険)

SPIROU le journal d'un ingénu
(スピルー、或る無邪気な者の新聞)

シナリオ、画:Émile Bravo(エミール・ブラヴォー)
彩色:Delphine Chedru(デルフィン・シェドゥリュ)
協力:Rémi Chaurand(レミ・ショーラン)

DUPUIS社、2008年刊
「SPIROU」誌3638号~3647号掲載
(初出のデータは→こちらを参考にしました)

●「SPIROU」公式サイトの紹介ページ
●Dupuis社の紹介ページ


《あらすじ》
 1939年、夏のブリュッセル。Spirou(スピルー)は、Moustic Hotel(ムスティック・ホテル)でベルボーイとして働く孤児の少年。先輩格のポーターであるEntresol(アントルソル、中2階の意味もあり)は乱暴者で、Spirouを目の敵にしている。しかしフロント係のDewilde(ドゥウィルド)はSpirouに対して優しく接していて、Entresolには手を焼いている。メイドとして新しく入ってきた少女はSpirouと親しく打ち解けているようでいて、どこか謎めいている。
 ホテルの外では、Spirouは近所の子供達の良い兄貴分であり、しばしば空き地のサッカーで乱闘状態になる子供達を仲裁したりする。一人暮らしのアパートでリスのSpip(スピップ)を飼っていたが、ケージから抜け出して電気配線をかじってしまったので放っておけず、こっそりホテルに連れて行くことにする。
 Moustic Hotelには、諸外国から訳ありの宿泊客が訪れる。ポーランドからやって来た3人組が、ダンツィヒの港をめぐってナチスの外交官と秘密裏に交渉する。他には、フランスからのお忍びで、有名デザイナーとボクシングチャンピオンのセレブカップルが滞在しに来る。
 ある日、Spirouの目の前に、新聞「Le Moustique(ル・ムスティック)」のジャーナリスト、Fantasio(ファンタジオ)が現れる。Fantasioは有名人のゴシップを追いかけていて、Spirouに情報提供者にならないかと持ちかける。たとえ断られようと、また、ホテルから出入り禁止を食らおうと、FantasioはめげずにSpirouにつきまとい、或いは単独でホテルに潜り込んで取材を敢行しようとする。
 メイドの少女と湖畔でデート。Spirouは少女から、複数の国にまたがった複雑な身の上を聞く。また、少女とはぐれた後、その背後に不振人物の影を見る。
 日に日に戦争突入への懸念が増し、ホテル内の秘密会談には展望が見えず、メイドの少女は帰国を迫られる。そんな中、Spirouは事態の解決を図ろうとするが…


《感想など(ネタバレ有り)》
 当ブログ2008年4月18日付け記事で触れた「Une aventure de Spirou et Fantasio par ...(本編とは別のパラレルワールドのようなシリーズ)」の第4弾。Émile Bravoが「Spirou et Fantasio(以下「S et F」と表記)」の世界を力強く描きます。この作品で描かれるSpirouは、不幸な境遇ながらも健気な少年。私は前回のエントリで「何でこの子ホテルの制服着て外を歩いたり家でくつろいでたりしてるの?」と疑問に思ったと書きましたが、まさにその事に答えています。Spirouは貧しい孤児だから服を買うお金が無いので、ホテルから支給された制服を着続けている訳ですね。そして当ブログ2006年1月26日付け記事で触れたように、現在の肩書きが「Aventurier, reporter, photographe(冒険者、レポーター、写真家)」と変わったのは何故かというと、Fantasioとの出会い及び、戦争を取り巻く社会状況への関心の結果なのだということが、最後に分かります。

 ところどころコミカルな描写を交えながら、開戦直前のヨーロッパの政治状況が生々しく描かれます。空き地で遊ぶ子供達の会話も大人達のそれを反映していて、「fasciste(ファシスト)」だの「coco(ココ、コミュニストの蔑称)」だのという言葉を交えた、結構どぎついものでした。それに、ホテルという場所の、いわゆる「大人の世界」をかいま見せたりもしているので、本来の「S et F」シリーズの対象年齢の子供達にとっては少々刺激が強いかも知れません。だから、この作品は今年のアングレーム国際バンドデシネ・フェスティバルで、「Sélection Jeunesse (子ども向け作品セレクション)」ではなく「Sélection Officielle (オフィシャル・セレクション)」にノミネートされたのでしょうね。(参考:アングレーム国際バンドデシネ・フェスティバル 2009 :: 1000planches

 ホテルの秘密会議の内容を偶然耳にし、メイドの少女の出自を知り、Spirouは自分の置かれている状況が世界と地続きである事を次第に認識していきます。「タンタン」が掲載されている子供向けの新聞「Le Petit Vingtiéme(日本語に訳すと、小さな20世紀の意)」を愛読するSpirouは、少女とのデートに、宿泊客のボクサーから貰ったチップで買ったタンタンのようなニッカボッカをはいていくのですが、その帰り、少女のことをもっとよく知るために、ズボンを手放して世界地図を買うくだりがまた実に健気でじーんとしてきます。ただし、この作者の描く世界は、人情とユーモアと毒のある世界。史実を元にしているのだから、当然Spirouはタンタンのように事件を解決することは出来ず、世界は戦争へと突入し、少女に関する悲しい事実を知らされます。でも、それらの出来事を経て、大人向けの新聞を購読して世界の出来事をもっと良く知ろうとするSpirouの姿には、一人の少年の成長していく様子が描かれていて、読後感は希望と感動がありました。ただ、やっぱりこの作者の描く世界には毒があるので、最後の最後の1ページで、Spipによって第二次世界大戦開戦原因の驚愕の真相が明かされます。


 ところで、他の作家が描く「S et F」と同様、この作品にも過去に登場したキャラクターが出てくるのですが、出所が渋すぎます。もしかしたら他にもあるかも知れませんが、今のところ気付いたものを列挙します。

  • 意地悪な先輩Entresol…Rob Vel(ロヴェル)による第2話(画像は→こちら、元記事は→こちら
  • 近所の子供達の一人、ちびっ子Maurice(モーリス)…André Franquin(アンドレ・フランカン)の初期作品「4 aventures de Spirou ...et Fantasio」より。(→こちらのページ真ん中あたりに画像と記事あり。モデルは「Lucky Luke」の作者のMorris(モリス)なのだとか)
  • 女装する男性…André Franquinの更に初期作品でアルバム未収録「Spirou et le travesti(スピルーと女装の男)」より。(作品は→こちら、元記事は→こちら。なにげにきわどい作品ですね。)


 本作品は現地で評判が高いようで、2008年の「Prix des Libraire de Bande Dessinée(バンドデシネにおける本屋賞)」(参考→こちら)や、アングレーム国際バンドデシネ・フェスティバル「Les Essentiels d’Angoulême (5つの優秀作品賞)」(参考→こちら)を受賞しているのだそうです。また、出典を失念したのですが、好評につき続編も出るという話も見かけました。続編も期待したいのですが、願わくば、アルバム未収録作品である「SPIROU」誌の第3653号掲載の短編(教会の孤児院の少年がベルボーイになるまでを綴った衝撃的なストーリー)や、こちらで紹介されている「Les Aventures de Swartz et Totenheimer(Joann Sfar(ジョアン・スファー)との共作で「Blake et Mortimer」のブラックなパロディ)」を何らかの形で刊行して欲しいものです(前者の方は雑誌を持ってはいるのですが、願わくばこの衝撃を広く分かち合いたくて…)。

(最終更新日:4月24日)

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2009年3月 5日 (木)

大勢のBD作家が描く「Spirou et Fantasio」

▼--- SPIROU POINT COM --- Le laboratoire ULTRAMODERNE d'humour webdomadaire :: La galerie des illustres
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 「SPIROU」誌公式サイト(いきなり音が出ることもあるので注意)の特設ページ。
 「Spirou et Fantasio(以下「S et F」と表記)」にまつわる思い出や心象風景を、有名なBD作家たちが各々1頁の漫画に描いています。ざっと見ただけでも、「ユーロマンガ」誌(もうすぐ第2号が出ますね!)に「天空のビバンドム」が掲載されているニコラ・ド・クレシー(Nicolas de Crécy)、かつて「モーニング」誌で「太陽高速」が掲載されていたバル(Baru)、「平壌」の翻訳が刊行されているギィ・ドゥリール(Guy Delisle)、ディズニー・チャンネルで放映中のアニメ「びっくりマジック・ファミリー」のキャラクターや背景のデザインを担当しているアルチュール・ド・パンス(Arthur de Pins)……と、日本にも関わりのある作家も見かけます。4月2日現在で全47作品が掲載されていて、おそらくは、「SPIROU」誌に連載されたものの再録と思われます。


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 こちらは、当ブログ2008年4月18日付け記事でご紹介した「SPIROU」誌の第3653号で、4種類の表紙違いのひとつ。この号には、Riad SattoufのインタビューとBDが掲載されていました。BDの方は、両親の都合でシリアに住んでいた頃の思い出話。いとこに「S et F」の説明をしていく内に、どんどん違った方向へとイメージがふくらんでいくというもの。左半分のインタビューを読むと、この作者は子供達の生態を描いたギャグ漫画が得意なようで、他の作品も読んでみたくなります。こんな感じで、他の号にも、BDとインタビュー記事が併せて載っているのでしょう。「SPIROU」誌のバックナンバーは、2008年の内容は→こちら、「Recueil(合本)」の収録号は→こちらが参考になるのですが、願わくば「S et F」関連の記事と単行本未収録のBDをまとめて書籍化して欲しいものです


 ところで当ブログ、ふと過去ログを読み返してみると、他人様の揚げ足取りが多くて赤面する次第ですが、そんな当ブログだって間違いはあります。2006年6月27日付け記事で「『Petit Spirou(ちびスピルー)』はSpirouの息子」と書きましたが、ロワールの曲がり角で『Spirou et Fantasio』(スピルーとファンタジオ)の記事でご指摘の通り、Petit SpirouはSpirouの子供時代なのですね。Tome(シナリオ担当)のインタビュー(→こちら)にも版元Dupuis社の紹介ページ(→こちら)にもその様な記述がありました。こんな悪ガキがあんな良い子に…、しかも誕生エピソードが違うし……。そういえば、初めて「S et F」の絵を目にした時「何でこの子ホテルの制服着て外を歩いたり家でくつろいでたりしてるの?」と疑問に思ったものでしたし、とにかく「Spirou」がらみのエピソードはつじつまの合わないことが多すぎます。だから、大勢のBD作家も思い思いに描いて、それが面白くかつ混乱させるのでしょうね。

(最終更新日:4月2日)

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2008年12月30日 (火)

ベルギー漫画センター・公式サイトより

▼Belgian Comic Strip Center, Brussels — Home
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仏語版top英語版top
 前回の記事を書いていて「Yvan Delporteの振り仮名は『イヴァン・デルポルト』で良いのかな…」と、googleで検索をしていたら、ベルギー漫画センターの日本語解説ページがヒットしました。ベルギー漫画の歴史や特徴、作品・作家紹介について、これまで日本であまり知られていなかったことが沢山書かれていて、ためになります。上記topページの右端の「+」マークをクリックすると、英・日・独・伊・西・中と、様々な言語のdocファイルとpdfファイルが載っているページが出て来て、ベルギー漫画についてのみならず、外国語の勉強も出来ちゃいそうです。


▼ベルギー観光局ワロン・ブリュッセル
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 また、ベルギー観光については、日本語サイトも随分と充実しているのですね。以下に、漫画関連の記事を列挙します。2009年は漫画をテーマにしたイベントが盛りだくさん。また、ルデュ(Redu)という、ワロン地方の「本の村」も気になります。


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 こちらは、新潮社から出ている「旅」という雑誌。図書館で見つけました(だから、上の写真は図書館の名前が分かる部分をスミ塗りしています)。女性向けっぽい雑誌ですが、どの号も写真が綺麗で情報が濃いです。2008年2月号はベルギー特集で、ブリュッセルののみの市や紙芝居、ルデュの「本の村」情報も充実していました。

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2008年12月22日 (月)

クリスマスの壁紙

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 BD書評サイト「BD Sélection」「Les fonds d'écran(壁紙)」のコーナーの検索(Recherche...)欄に、キーワード「Spirou」と入力してOKボタンをクリックして出てくるのが、上記の画面。André Franquin(アンドレ・フランカン)による『Spirou et Fantasio(スピルー&ファンタジオ)』のイラストで、おそらく1950年代に描かれたものだと思います。画像のリンク先は→こちら(398KB)。ホワイトクリスマスの街中のしっとりとした情景が描かれています。

 画面右下を歩いているのが、SpirouとFantasioとリスのSpip(スピップ)。あと、出典を失念したので確認出来ず、間違っていたら申し訳ないのですが、画面中央よりやや右下にたたずんでいるのがFranquin夫妻、左下に画材を抱えた小走りの黒ヒゲの男性は、雑誌「Spirou」の当時の編集長、Yvan Delporte(イヴァン・デルポルト)だったと思います。画面右上の兵士の銅像に雪が積もっているあたり、平和な時代の訪れをしみじみと感じさせ、じーんとしてきます。

 Franquinは「Spirou」誌に毎年クリスマスのイラストを描いていて、今日『Les Noëls de Franquin』という本にまとめられているそうです。Franquin公式サイト紹介ページに載っているサンプル画像も良くて、思わずこの本欲しくなっちゃうんですが、39ユーロは少々お高くて悩みます。

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2008年12月20日 (土)

Euromanga Vol.1(ユーロマンガ 1号)

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Euromanga Vol.1(ユーロマンガ 1号)
(飛鳥新社、2008年9月刊)
●公式サイト

 今年の9月に創刊した、日本初のヨーロッパのマンガ、バンド・デシネの専門誌。現地で既に好評を博している作品をセレクトして、複数回に分けて掲載していくとのこと。日本にBDを紹介するにあたって、あえて「Euromanga」という呼称を用いているのだとか。創刊号に掲載されているのは「SKY-DOLL(スカイ・ドール)」「RAPACES(ラパス)」「BLACKSAD (ブラックサッド)」「BIBENDUM CELESTE(天空のビバンドム)」の4作品。1500円というリーズナブルな価格なのに、フルカラーでゴージャスな誌面です。

 マンガ以外の記事は「ユーロマンガの世界へようこそ!!」「ニコラ・ド・クレシー ─ グラフィックの愉しみ」「Euromanga の友達」の三本立て。とりわけ一つめの記事は、バンド・デシネの特徴や歴史や代表作、及び日本での紹介事例について、わかりやすくコンパクトにまとめてあり、とても参考になりました。


 4つの作品のうち「スカイ・ドール」「ブラックサッド」「天空のビバンドム」は、個人ブログで紹介されていたり、邦訳が出ていたり、同じ作者の別作品が書籍に掲載されていたりと、日本でもその評判が知られているものでしたが、「ラパス」だけは恐らく今回が初上陸であり、現地からあえて紹介したかった作品なのではないかと思われます。私は、作画のスイス人エンリコ・マリーニ(Enrico Marini)が描く予定の「Corto Maltese」(→Le Figaroの記事)が気になっていますので、いつか誌面で取り上げて下さると有り難いです。

 今号でセレクトされた4作品は、どれも設定が凝っているし、絵も素晴らしく、綺麗な彩色で十分に堪能できました。ただ、セリフやモノローグが日本語で書かれているとはいえ、もともとの文章が長いせいもあり、作品世界に入り込むのにちょっと手間取りました。これは私の個人的事情かも知れませんが、日本語で書かれていると、つい、日本のマンガを読むようなリズムで、急いで読もうとしてしまうからなのかも知れません。また、私がこれまで翻訳書を読みつけていなかったせいもあるかと思います。日本語の文章だと頭から読むけど、原文だと、固有名詞→主語→動詞→目的語→修飾語といった感じに、自分で意味を拾いに行くし、辞書を引き引き一語一語刻むように読み込むから、時間はかかるけどその分入れ込むのかも知れません。

 次号は3月刊行予定とのことで、続きが楽しみです。今号の記事「ニコラ・ド・クレシー ─ グラフィックの愉しみ」の文中には、なにげに「天空のビバンドム」のオチを示唆している箇所があるのですが(そんな大したものではありませんが)、最終的に○○○○○○うのは生首の語り部かはたまた無知に対する勝利を獲得すべく学業に励むアザラシのディエゴなのか、そしてそれはどのようにして起こるのかが気になります。


 マンガ大国日本では、外国漫画を翻訳刊行するというのは、過去の歴史に照らし合わせても非常に難しいことと思います。同じ漫画という形式であっても、日本の漫画を読むように外国のそれを読むようにはいかないですし。でも、それはどっちが良いとか悪いとかいう問題では無く、あくまでも世界が違うということなのだと思います。映画だって、駅前のTOHOシネマズでかかるものと、渋谷界隈の単館ロードショーでかかるものとでは、随分とおもむきが異なることでしょう。こうして翻訳がコツコツと刊行されていくことで、外国漫画というのがひとつのジャンルとして定着していったら良いなぁ、と思いました。

(12月29日、一部書き直し)

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2008年4月18日 (金)

「SPIROU」70周年!

▼SPIROU HEBDO NUMÉRO3653
spirou.comより
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 ベルギー~フランスの老舗バンド・デシネ雑誌「SPIROU」。「Le Journal de Spirou」という誌名で創刊したのが1938年4月21日だから、今年は創刊70周年!現在発売中の3653号には、本誌には番外編のBD作品が、別冊付録の冊子には70人の作家による看板キャラクター「SPIROU」のイラストが描かれているそうです。上記リンク先のサンプル版に掲載されているのは、 Fabien Vehlmann(シナリオ)とYoann(作画)の短編全8ページと、Emile Bravoの短編から1ページ。Vehlmann&Yoannは「Une aventure de Spirou et Fantasio par ...(本編とは別のパラレルワールドのようなシリーズ)」の第1作「Les Géants pétrifiés」の作者であり、次期の本編シリーズを描くと言われているコンビ(でも正式発表は今のところ無し)。一方、Emile Bravoは4月21日発売予定の「Une aventure~」の最新作「Journal d'un ingénu」の作者です。

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 この「Journal d'un ingénu(日本語にすると『ある無邪気な者の日記』かなぁ…それとも新聞?)」は、ネット上の紹介文を読んでいると、それまでのどのシリーズとも異なったハードな物語のようです。また、発売日を創刊記念日に持って来るあたりに出版社側の力の入れようがうかがえます。。その内容はというと、時代は「Le Journal de Spirou」が誕生した頃、すなわち第二次世界大戦直前のベルギーが舞台。主人公のスピルーは孤児の少年で、タンタンにあこがれていて、ムスティック・ホテルでベルボーイとして働き、戦争に巻き込まれていく話のようです。興味のある方は、作品紹介は公式サイト紹介ページや、ベルギーの新聞「Le Soir」のサイトに掲載された作者のインタビューをご覧になってみて下さい。bande-annonce(予告編の動画)といい、表紙のデザインといい、第二次世界大戦下のベルギーを強く表現しています。(表紙のデザイン、配色はベルギーの国旗を意識しているとかで、両端の黒いのと赤いのは、よく見るとナチスとソ連のマークの集合体なんですよね…)

(最終更新日:2009年4月2日)

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