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2009年6月

2009年6月29日 (月)

MORT CINDER T.1 : LES YEUX DE PLOMB

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MORT CINDER T.1 : LES YEUX DE PLOMB
(モート・シンダー 第1巻 : 鉛の眼)
シナリオ:Héctor Germán Oesterheld (エクトル・ヘルマン・オエステルヘル、1919-1978?)
画:Alberto Breccia(アルベルト・ブレッチャ、1919-1993)
初出:『MISTERIX』誌714号(1962年7月)-735号(1962年12月)、『MISTERIX SPÉCIAL』誌(1962年12月)
VERTIGE GRAPHIC社、2002年刊

《あらすじ》
 Ezra Winston(エズラ・ウィンストン)は、ロンドンで骨董商を営む老齢の男性。或る日、“SQUELETTE(スケレット、骸骨の意)”と呼ばれる出入りの男が奇妙な(蜘蛛の?)形をした魔除けのような物体を持ち込む。それをくるんでいた古新聞の見出しには「殺人犯Mort Cinder(モート・シンダー)、今日絞首刑に」の文字が躍る。Ezraの手のひらにその奇妙な形の跡が残る。Ezraの行く先々で奇妙なことが起こる。言葉を交わす相手の手や顔には同じく奇妙な形が表れ、新聞には同じ見出しが躍り、“鉛の眼”をした3人組につけ回され……。
 逃げまどうEzraは墓地に行き着く。Ezraは墓地の番人に出会い、ここがMort Cinderの埋葬されている墓地だと知る。Ezraは、“鉛の眼”の3人組がMort Cinderの墓を掘り起こしてとどめを刺そうとするのを目撃する。Ezraは3人組を阻止し、蘇生したMort Cinderと共に難を逃れ、その背景にある陰謀に立ち向かうこととなる……。
(英国が舞台の物語につき、登場人物のカナ表記は英語っぽく書きました。)

《感想など(少々ネタバレ有り)》
 アルゼンチンの古典漫画のフランス語版。シナリオを描いているのは前回のエントリで取り上げた『El Eternauta』のH.G.Oesterheld。作画はアルゼンチンの代表的な漫画家の一人であるAlberto Brecciaで、フランス語に翻訳された作品も多く刊行されています。また、今年2009年、米国アイズナー賞の「Eisner Hall of Fame (殿堂入り)」にノミネートされているとのことです(→こちら)。
 本作は、不死の男Mort Cinderをめぐる物語で全2巻の内の第1巻。時空を旅するMort Cinderと、聞き手であるEzra Winstonとの間柄は、『El Eternauta』におけるJuan Salvoと漫画シナリオライター(H.G.Oesterheldの分身)にも似ているような気がします。またその一方で、作画家のA. Brecciaは主人公Ezra Winstonの顔を自身をモデルとして描き、Mort CinderはアシスタントのHoracio Laliaがモデルだったそうです(参考→こちら)。
 A. Brecciaの画風は薄墨を使った凝ったもので、この仏語版は濃淡も再現しているのですが、おそらくモノクロ2階調の印刷だと、ところどころかすれて、あたかも昔の劣化した白黒映画のような怖い雰囲気が出てくるのではないかと思います。A. Brecciaは作品によって画風がかなり異なるのですが、一貫して見る者の恐怖心をかきたてます。個人的には、心に刺さる感じがします。Ezra WinstonとMort Cinderの逃走劇は、画風に加えて演出も恐ろしいものでした。とりわけ骸骨が転がっている地下道の場面で、追っ手の声のこだまかはたまた骸骨が蘇って語りかけるのか分からなくなってくるあたりが……。
 ストーリーの核となる陰謀は、『トワイライト・ゾーン』や『怪奇大作戦』にもありそうな気もするのですが、他者の生きてきた記憶を自分のものとしたい欲望というのは、シナリオライターであるOesterheldの願望が入っているのかどうかが気になりました。また一方で、不死の体を持ち様々な人生経験を経ているMort Cinderには、それだけ負の記憶をも積み重ねている訳で、その悲劇と苦悩は第2巻で描かれている模様です。 オチが綺麗に決まっているので一瞬、理路整然としたストーリーになっているかと思いきや、よく考えてみると冒頭の蜘蛛の形をした骨董品の意味が分からないし(読み落としがあったら申し訳ない…)、“SQUELETTE”と呼ばれる出入りの男や沼地の住人等、Ezra WinstonをMort Cinderへといざなう人物の存在は不条理で、でも不条理であるからこそ、読者である私もEzraと共にMort Cinderに惹き付けられるのかなと思いました。


(最終更新日:7月6日)

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2009年6月26日 (金)

『El Eternauta』映画化と、その件に関連して

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 当ブログ2007年6月5日付け記事でご紹介した、アルゼンチンの古典漫画『El Eternauta(エル・エテルナウタ)』の映画化について。

《参考リンク》
▼el eternauta: la película
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 アルゼンチン・イタリア・スペイン合作で、監督・脚本はルクレシア・マルテル(Lucrecia Martel)。2009年に撮影、2010年に公開したいという話だそうです。共同製作に名を連ねる会社の社名・国名・プロデューサー名を列記すると、「K&S Films(アルゼンチン、Oscar Kramer、Hugo Sigman)」「Film-Maker(イタリア、Andrea Marotti)」「El Deseo(スペイン、Pedro Almodovar、Agustin Almodovar)」。「El Deseo」は『オール・アバウト・マイ・マザー(原題:TODO SOBRE MI MADRE)』等で日本でも知られる、ペドロ&アウグスティンのアルモドバル兄弟の会社(公式サイトは→こちら)。また、「K&S Films」のサイト(→こちら)の製作中のプロジェクトを挙げたページ(→こちら)にポスターの画像と「“El Eternauta”, project based on the graphic novel by Hector German Oesterheld.」との文面がありました。

 ルクレシア・マルテル監督といえば、昨年9月の「スペイン・ラテンアメリカ映画祭」(→公式サイト)に来日するとのことだったので、、最新作『顔の無い女(原題:LA MUJER SIN CABEZA)』上映と、その後に続く監督舞台挨拶を見に行ったものでした。

 映画『顔の無い女』の作品紹介は→こちら、youtubeにupされている予告編は→こちら。主人公の婦人は本当に少年をひき逃げしたのかそれとも……というあらすじは一見、心理サスペンス映画かとも思われましたが、私の胸中に去来したのは「ああ、これは“カムフラージュ映画”なのだろうな」ということでした。“カムフラージュ映画”というのは私が勝手に作った用語ですが、由来は当ブログ2006年6月6日付け記事で取り上げた『Camouflage Comics: Dirty WarImages 』というサイト(→こちら)。要は、アルゼンチンの軍事独裁下の出来事の暗喩が込められているのだろうなと思ったのです。果たして、映画の後の質疑応答で、監督自身から自分が育った町で起こった“失踪”についての話が出て来ました。

 アルゼンチンの映画といえば、以前、レンタルDVDで『ブエノスアイレスの夜(原題:VIDAS PRIVADAS)』と言う映画を見ました。こちらも軍事独裁下に起こったことを描いていたのですが、決定的な出来事以外は思わせぶりな描写ばかりで、一体何があったのか、本当は何も無かったのではないかとも受け取れるようなストーリーになっていて、ネットの評判もあまり思わしくないようです。でも、一つ一つの出来事を丹念に追っていくと、何故姉妹は20歳も年が離れているのか、姉の夫の死因は何故あいまいなのか、あの一家は何故医者に負い目があるのか等々、ある程度推察が可能なんじゃないかという気がしてきました。そして、何故もっと分かりやすく描けなかったかというと、それだけトラウマが強いということなのだと推察します。

 『El Eternauta』のシナリオを執筆したHéctor Germán Oesterheld (エクトル・ヘルマン・オエステルヘル、1919-1977に消息不明となり、翌1978に死亡したと言われる、出展は西語版wikipedia)は、政治活動により軍事独裁政権に身柄を拘束されたと言われ、描いた漫画のシナリオが原因ではないと言われています(参考→こちらのブログのコメント欄)。しかし、H.G.Oesterheldを始めアルゼンチンの漫画を理解する際に、政治的な話には触れない訳にはいかないようにも思います。時代は違えど、当ブログ4月17日付け記事で取り上げた、世界初の長編アニメーション映画を制作したQuirino Cristiani(クリノ・クリスチャーニ)についてのドキュメンタリー映画(→公式サイト)の制作スタッフは、バックグラウンドとなるアルゼンチンの政治事件の歴史について学んだということですし(参考→こちら、pdfファイル)、それはどうしても無視できないものに思うのです。

 ただ、政治的な話、とりわけこの件のように大きなトラウマを残すものは、どうしても語りにくいところがあって、現地の人々がH.G.Oesterheldを語るとき、冒頭に挙げた参考リンクにしても、当ブログ2009年4月20日付け記事で取り上げたドキュメンタリー映画『Imaginadores』の英語字幕付きトレーラー(→こちら)にしても、政治的な話は一切出て来ません。それでも、軍事独裁政権に関する話は、近年、色んな人が色んな言葉で語りつつあり、時に映画や漫画に表れたりもしているようなので、日本にいる私にも触れることが出来るものは、極力触れていこうと思います。

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2009年6月23日 (火)

メビウス画「The story of an idea~赤十字誕生物語~」日本語版!

 当ブログ2008年12月9日付け記事でご紹介した、メビウス(ジャン・ジロー)画による、赤十字の創設者アンリー・デュナン(1828-1910)について、そして赤十字社及び赤新月社の誕生から現在に至るまでの活動について描かれた短編漫画、ついに日本語化されたのですね!日本赤十字社のサイトの中にupされていました。

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●【日本赤十字社】寄付・献血・ボランティア|The story of an idea~赤十字誕生物語~(記事)
●日本語版コミックPDF

 タダで、そして日本語でメビウス画の漫画が読めるとは、なんと太っ腹な!全12ページ(漫画本編は8ページ)だから駆け足ではありますが、赤十字社及び赤新月社について知ると共に、そのバックグラウンドの世界史の勉強にもなりますよ。


《7月1日追記》
 今、本家赤十字の紹介ページを見たら、メビウスのインタビュー記事のページが追加されていました(→こちら)。

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2009年6月22日 (月)

「時代と人間」「路上の人」「聖者の行進」

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 図書館で見つけた3冊。堀田善衞(1918-1998)によるエッセイと小説なのですが、スタジオジブリから刊行されているというので、当ブログで取り上げる次第です。堀田善衞という人は、第二次大戦末期に上海に渡り、敗戦後国民党宣伝部に1947年まで留用、1950年代から80年代のアジア・アフリカ作家会議へ参加、1977年から87年までの数回の帰国をはさんだスペイン滞在と、豊富な海外滞在経験を持ち、作品にもその経験から培われたであろう描写と見識に満ちています。この3冊には、1970年代以降に書かれたものが収録されていて、作品のみならず、その構成や作品選択の妙も感じ取れました。

 1冊めの「時代と人間」は、1992年にNHK教育TVで放映された「人間大学」という講座番組のテキスト。「歴史の中の『観察者』」として取り上げるのは、『方丈記』の鴨長明、『明月記』の藤原定家、『随想録』のモンテーニュ、13世紀のローマ法王ボニファティウス八世、18世紀のスペインの画家ゴヤ。各々の残したもから歴史の縦横を読み解くことで浮かび出される人間の営み。戦禍、天災、時代の転換期といった「乱世」における恐ろしさに震え上がる思いがし、また、時代と洋の東西を問わず共通点も見出され、歴史を学び歴史に学ぶ意義を痛感しました。

 2冊めの「路上の人」はスペイン滞在時に書き下ろされた長編小説。ヨナという名の放浪者の目を通して、13世紀のヨーロッパが描かれます。ヨナは路上で生き抜くために多くの知恵を身に付け、多くの人々の出会いから多くの言語を習得し、鋭い観察眼を持ちます。教会や法王庁の組織批判、国家間の駆け引き、信教の自由、信教を貫くことと生きることとの矛盾、ものを知るということを人は如何に渇望するか、そしてそれは如何に危険視されるか……等々、時代も国も隔てた出来事を題材としているのに、日本史で習ったことや現代に起こっていることの中に置き換え可能なものがあるなと思い、人間の営みの根源について考えさせられました。

 3冊目の「聖者の行進」は歴史上の人物・出来事を題材にした作品集。寄せては返す波のように、方々の時代・方々の国々に生きた人々の振る舞いが、作者の手によってよみがえります。栄華を極めたその先は、聖地を求めて辿り着く先は、聖者に盲従して行き着く先は――。ここに描かれているのは遠い過去の出来事のようでいて、今もどこかで起こっている、或いは起こり得ることのような気もして、やはり人間の根源というものについて考えずにはいられません。しかし、それでも人間は希望を持つものだから、そこから学び取って生かすことも可能なのではないか、可能であって欲しい、と切に願います。


《6月25日 追記》
 ところで、この3冊が何故スタジオジブリから刊行されたのかというと、宮崎駿が私淑し、交流があったからなのだそうですね。スタジオジブリ出版部だよりの2003.9.26付けの記事にそのいきさつが書いてありました。また、特設サイトが存在しているのに、今頃気が付きました。
●復刊記念特別WEBサイト 堀田善衞「時代と人間」

 そして、昨年10月には県立神奈川近代文学館にて「堀田善衞展 スタジオジブリが描く乱世。」という展覧会が開催されていたとのこと(→こちら)。堀田善衞の作品とスタジオジブリの世界は、思いの外近いのですね。いつか、アニメーション作品として目にする日が訪れることを期待します。

(最終更新日:6月25日)

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