MORT CINDER T.1 : LES YEUX DE PLOMB

MORT CINDER T.1 : LES YEUX DE PLOMB
(モート・シンダー 第1巻 : 鉛の眼)
シナリオ:Héctor Germán Oesterheld (エクトル・ヘルマン・オエステルヘル、1919-1978?)
画:Alberto Breccia(アルベルト・ブレッチャ、1919-1993)
初出:『MISTERIX』誌714号(1962年7月)-735号(1962年12月)、『MISTERIX SPÉCIAL』誌(1962年12月)
VERTIGE GRAPHIC社、2002年刊
《あらすじ》
Ezra Winston(エズラ・ウィンストン)は、ロンドンで骨董商を営む老齢の男性。或る日、“SQUELETTE(スケレット、骸骨の意)”と呼ばれる出入りの男が奇妙な(蜘蛛の?)形をした魔除けのような物体を持ち込む。それをくるんでいた古新聞の見出しには「殺人犯Mort Cinder(モート・シンダー)、今日絞首刑に」の文字が躍る。Ezraの手のひらにその奇妙な形の跡が残る。Ezraの行く先々で奇妙なことが起こる。言葉を交わす相手の手や顔には同じく奇妙な形が表れ、新聞には同じ見出しが躍り、“鉛の眼”をした3人組につけ回され……。
逃げまどうEzraは墓地に行き着く。Ezraは墓地の番人に出会い、ここがMort Cinderの埋葬されている墓地だと知る。Ezraは、“鉛の眼”の3人組がMort Cinderの墓を掘り起こしてとどめを刺そうとするのを目撃する。Ezraは3人組を阻止し、蘇生したMort Cinderと共に難を逃れ、その背景にある陰謀に立ち向かうこととなる……。
(英国が舞台の物語につき、登場人物のカナ表記は英語っぽく書きました。)
《感想など(少々ネタバレ有り)》
アルゼンチンの古典漫画のフランス語版。シナリオを描いているのは前回のエントリで取り上げた『El Eternauta』のH.G.Oesterheld。作画はアルゼンチンの代表的な漫画家の一人であるAlberto Brecciaで、フランス語に翻訳された作品も多く刊行されています。また、今年2009年、米国アイズナー賞の「Eisner Hall of Fame (殿堂入り)」にノミネートされているとのことです(→こちら)。
本作は、不死の男Mort Cinderをめぐる物語で全2巻の内の第1巻。時空を旅するMort Cinderと、聞き手であるEzra Winstonとの間柄は、『El Eternauta』におけるJuan Salvoと漫画シナリオライター(H.G.Oesterheldの分身)にも似ているような気がします。またその一方で、作画家のA. Brecciaは主人公Ezra Winstonの顔を自身をモデルとして描き、Mort CinderはアシスタントのHoracio Laliaがモデルだったそうです(参考→こちら)。
A. Brecciaの画風は薄墨を使った凝ったもので、この仏語版は濃淡も再現しているのですが、おそらくモノクロ2階調の印刷だと、ところどころかすれて、あたかも昔の劣化した白黒映画のような怖い雰囲気が出てくるのではないかと思います。A. Brecciaは作品によって画風がかなり異なるのですが、一貫して見る者の恐怖心をかきたてます。個人的には、心に刺さる感じがします。Ezra WinstonとMort Cinderの逃走劇は、画風に加えて演出も恐ろしいものでした。とりわけ骸骨が転がっている地下道の場面で、追っ手の声のこだまかはたまた骸骨が蘇って語りかけるのか分からなくなってくるあたりが……。
ストーリーの核となる陰謀は、『トワイライト・ゾーン』や『怪奇大作戦』にもありそうな気もするのですが、他者の生きてきた記憶を自分のものとしたい欲望というのは、シナリオライターであるOesterheldの願望が入っているのかどうかが気になりました。また一方で、不死の体を持ち様々な人生経験を経ているMort Cinderには、それだけ負の記憶をも積み重ねている訳で、その悲劇と苦悩は第2巻で描かれている模様です。 オチが綺麗に決まっているので一瞬、理路整然としたストーリーになっているかと思いきや、よく考えてみると冒頭の蜘蛛の形をした骨董品の意味が分からないし(読み落としがあったら申し訳ない…)、“SQUELETTE”と呼ばれる出入りの男や沼地の住人等、Ezra WinstonをMort Cinderへといざなう人物の存在は不条理で、でも不条理であるからこそ、読者である私もEzraと共にMort Cinderに惹き付けられるのかなと思いました。
(最終更新日:7月6日)
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