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2009年5月27日 (水)

フランスの子ども絵本史

 図書館で見つけた1冊。(だから、写真の一部に色を塗って隠しています。)


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フランスの子ども絵本史

著者:石澤小枝子、高岡厚子、竹田順子、中川亜沙美

発行:大阪大学出版会

(2009年2月刊)

梅花女子大学 児童文学・絵本センターの紹介ページ

大阪大学出版会の紹介ページ



 A4サイズハードカバーに本文424ページ厚さ約3センチのズッシリとした豪華本(試しに重さを量ってみたら、2キロと表示されました)。題名に「フランス」「絵本」と書いてあるものだから、もしかして漫画(BD、バンド・デシネ)のことも取り上げられているかな?と思ってページをパラパラめくっていたら、古典BDの紹介が充実していたので、借りてみました。先日、当ブログにてイヴ・サンローランの「おてんばルル」(→こちら)を取り上げたとき、現地では“漫画”だって言っているのに日本では“絵本”と言い換えていることを指摘しましたが、そのとき実は内心、“漫画”などと称してはオシャレ度が下がってしまうから言い換えるのだろうと舌打ちの一つもしたくなるような気持ちだったものでした。でも本書を開くと、バンド・デシネの背景には豊かな絵本文化の歴史があるのだということを知り、各々の紹介に目を見張る思いがしたのでした。


 本書では、18世紀の大衆向け印刷物を“絵本のあけぼの”とし、トロワの町の「青表紙本」と呼ばれる大衆向けの小型廉価本や、町名に由来する「エピナル版画」を取り上げています。「エピナル版画」の一例でペローの絵物語の図版が紹介されているのですが、4×4コマの絵および各コマの下に説明書きと、既に漫画っぽいフォーマットになっているのが興味深かったです。また、宮廷や貴族の子どものための読み物が民衆に広まっていく様子が多くの図版から伝わってくるのも面白かったです。


 本書はとにかく豊富な図版が魅力的で、何とも贅沢な“目のご馳走”という感じがしました。画像が小さいかなと当初思ったのですが、印刷の鮮明さがそれを補っていると思いました。限られたスペースの中で多くの画像を載せるのは大変だったことでしょう。


 18世紀から今日に至る絵本・絵物語の数々が本書で紹介されているのですが、日本で殆ど知られていないものもあれば、おなじみのものもありました。ラ・フォンテーヌの寓話やジュール・ベルヌのSF小説など、断片的には知っているような気がする作品も、多くの画家によって様々に描かれているのを見ると、あらためて本編を読んでみたくなります。各々の作品・作家の紹介から当時の歴史もうかがえて、単に綺麗な絵をながめるだけでなく、フランスの児童文学や歴史について色々と知るのは面白いことでした。


 本書は「日本で最初の、フランスにもない画期的なフランス絵本史」なのだそうです。また、日本で書かれた研究書ならではとして「子どもの絵本に見る日本」という章が設けられています。紹介されている図版は非常に充実していて、また、描かれている日本の情景も、日本人画家によるものはもちろんのこと(中には藤田嗣治の絵もあり)、外国人画家が描いているものも案外ちゃんとしているのだなという印象を受けました。フランス人の日本への関心というのは、筋金入りなのですね。おそるべしフランス。


 ところで、本書で取り上げられているBD作家は、クリストフ、テプファー、ルイ・フォトン、アラン・サン=トガン、パンション、エルジェ、アルベール・ユデルゾとルネ・ゴシニ。バンジャマン・ラビエは絵本作家として紹介されていました。個人的にはパンションの紹介のおかげで「ベカシーヌ」のアニメ映画(2001年フランス公開)と原作の関係が分かったのが有り難かったです。アニメの設定は原作の次世代の話で、ベカシーヌのかつての奉公先の侯爵夫人の養女であるルロットが大きくなって結婚して生まれた娘のシャルロットを一時的にお世話する際のドタバタ劇なのですね(追記:だからベカさんは原作に比べて成長したのか大柄に描かれているのかと思ったのですが、でも、車や電話のデザインを見てるとBDとアニメとでは時代設定が異なるみたい……。なので、この両者はパラレルワールドという気がします。なお『Bécassine(ベカシーヌ)』のアニメに関しては、こちらに感想を書きました。また、当ブログでは頻繁に小ネタを取り上げています(→ブログ内検索))。


 本書は梅花女子大学文学部児童文学科の収集と研究の成果とのことで、大学で長い年月をかけてコツコツと積み重ねてきた成果をこうして拝見出来るのはとても喜ばしいことだと思いました。また、フランス本国における研究書として、児童文学にはフランソワ・カラデック著「フランス児童文学史」、雑誌にはアラン・フールマン著「青少年や子どものための雑誌の歴史」という本があるそうですが、前者は翻訳も出ているとのことなので、いずれ読んでみたいと思いました。


(2010年6月28日、一部追記)

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