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2009年3月26日 (木)

SPIROU le journal d'un ingénu

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UNE AVENTURE DE SPIROU ET FANTASIO PAR ÉMILE BRAVO
(エミール・ブラヴォーによる、スピルー&ファンタジオの冒険)

SPIROU le journal d'un ingénu
(スピルー、或る無邪気な者の新聞)

シナリオ、画:Émile Bravo(エミール・ブラヴォー)
彩色:Delphine Chedru(デルフィン・シェドゥリュ)
協力:Rémi Chaurand(レミ・ショーラン)

DUPUIS社、2008年刊
「SPIROU」誌3638号~3647号掲載
(初出のデータは→こちらを参考にしました)

●「SPIROU」公式サイトの紹介ページ
●Dupuis社の紹介ページ


《あらすじ》
 1939年、夏のブリュッセル。Spirou(スピルー)は、Moustic Hotel(ムスティック・ホテル)でベルボーイとして働く孤児の少年。先輩格のポーターであるEntresol(アントルソル、中2階の意味もあり)は乱暴者で、Spirouを目の敵にしている。しかしフロント係のDewilde(ドゥウィルド)はSpirouに対して優しく接していて、Entresolには手を焼いている。メイドとして新しく入ってきた少女はSpirouと親しく打ち解けているようでいて、どこか謎めいている。
 ホテルの外では、Spirouは近所の子供達の良い兄貴分であり、しばしば空き地のサッカーで乱闘状態になる子供達を仲裁したりする。一人暮らしのアパートでリスのSpip(スピップ)を飼っていたが、ケージから抜け出して電気配線をかじってしまったので放っておけず、こっそりホテルに連れて行くことにする。
 Moustic Hotelには、諸外国から訳ありの宿泊客が訪れる。ポーランドからやって来た3人組が、ダンツィヒの港をめぐってナチスの外交官と秘密裏に交渉する。他には、フランスからのお忍びで、有名デザイナーとボクシングチャンピオンのセレブカップルが滞在しに来る。
 ある日、Spirouの目の前に、新聞「Le Moustique(ル・ムスティック)」のジャーナリスト、Fantasio(ファンタジオ)が現れる。Fantasioは有名人のゴシップを追いかけていて、Spirouに情報提供者にならないかと持ちかける。たとえ断られようと、また、ホテルから出入り禁止を食らおうと、FantasioはめげずにSpirouにつきまとい、或いは単独でホテルに潜り込んで取材を敢行しようとする。
 メイドの少女と湖畔でデート。Spirouは少女から、複数の国にまたがった複雑な身の上を聞く。また、少女とはぐれた後、その背後に不振人物の影を見る。
 日に日に戦争突入への懸念が増し、ホテル内の秘密会談には展望が見えず、メイドの少女は帰国を迫られる。そんな中、Spirouは事態の解決を図ろうとするが…


《感想など(ネタバレ有り)》
 当ブログ2008年4月18日付け記事で触れた「Une aventure de Spirou et Fantasio par ...(本編とは別のパラレルワールドのようなシリーズ)」の第4弾。Émile Bravoが「Spirou et Fantasio(以下「S et F」と表記)」の世界を力強く描きます。この作品で描かれるSpirouは、不幸な境遇ながらも健気な少年。私は前回のエントリで「何でこの子ホテルの制服着て外を歩いたり家でくつろいでたりしてるの?」と疑問に思ったと書きましたが、まさにその事に答えています。Spirouは貧しい孤児だから服を買うお金が無いので、ホテルから支給された制服を着続けている訳ですね。そして当ブログ2006年1月26日付け記事で触れたように、現在の肩書きが「Aventurier, reporter, photographe(冒険者、レポーター、写真家)」と変わったのは何故かというと、Fantasioとの出会い及び、戦争を取り巻く社会状況への関心の結果なのだということが、最後に分かります。

 ところどころコミカルな描写を交えながら、開戦直前のヨーロッパの政治状況が生々しく描かれます。空き地で遊ぶ子供達の会話も大人達のそれを反映していて、「fasciste(ファシスト)」だの「coco(ココ、コミュニストの蔑称)」だのという言葉を交えた、結構どぎついものでした。それに、ホテルという場所の、いわゆる「大人の世界」をかいま見せたりもしているので、本来の「S et F」シリーズの対象年齢の子供達にとっては少々刺激が強いかも知れません。だから、この作品は今年のアングレーム国際バンドデシネ・フェスティバルで、「Sélection Jeunesse (子ども向け作品セレクション)」ではなく「Sélection Officielle (オフィシャル・セレクション)」にノミネートされたのでしょうね。(参考:アングレーム国際バンドデシネ・フェスティバル 2009 :: 1000planches

 ホテルの秘密会議の内容を偶然耳にし、メイドの少女の出自を知り、Spirouは自分の置かれている状況が世界と地続きである事を次第に認識していきます。「タンタン」が掲載されている子供向けの新聞「Le Petit Vingtiéme(日本語に訳すと、小さな20世紀の意)」を愛読するSpirouは、少女とのデートに、宿泊客のボクサーから貰ったチップで買ったタンタンのようなニッカボッカをはいていくのですが、その帰り、少女のことをもっとよく知るために、ズボンを手放して世界地図を買うくだりがまた実に健気でじーんとしてきます。ただし、この作者の描く世界は、人情とユーモアと毒のある世界。史実を元にしているのだから、当然Spirouはタンタンのように事件を解決することは出来ず、世界は戦争へと突入し、少女に関する悲しい事実を知らされます。でも、それらの出来事を経て、大人向けの新聞を購読して世界の出来事をもっと良く知ろうとするSpirouの姿には、一人の少年の成長していく様子が描かれていて、読後感は希望と感動がありました。ただ、やっぱりこの作者の描く世界には毒があるので、最後の最後の1ページで、Spipによって第二次世界大戦開戦原因の驚愕の真相が明かされます。


 ところで、他の作家が描く「S et F」と同様、この作品にも過去に登場したキャラクターが出てくるのですが、出所が渋すぎます。もしかしたら他にもあるかも知れませんが、今のところ気付いたものを列挙します。

  • 意地悪な先輩Entresol…Rob Vel(ロヴェル)による第2話(画像は→こちら、元記事は→こちら
  • 近所の子供達の一人、ちびっ子Maurice(モーリス)…André Franquin(アンドレ・フランカン)の初期作品「4 aventures de Spirou ...et Fantasio」より。(→こちらのページ真ん中あたりに画像と記事あり。モデルは「Lucky Luke」の作者のMorris(モリス)なのだとか)
  • 女装する男性…André Franquinの更に初期作品でアルバム未収録「Spirou et le travesti(スピルーと女装の男)」より。(作品は→こちら、元記事は→こちら。なにげにきわどい作品ですね。)


 本作品は現地で評判が高いようで、2008年の「Prix des Libraire de Bande Dessinée(バンドデシネにおける本屋賞)」(参考→こちら)や、アングレーム国際バンドデシネ・フェスティバル「Les Essentiels d’Angoulême (5つの優秀作品賞)」(参考→こちら)を受賞しているのだそうです。また、出典を失念したのですが、好評につき続編も出るという話も見かけました。続編も期待したいのですが、願わくば、アルバム未収録作品である「SPIROU」誌の第3653号掲載の短編(教会の孤児院の少年がベルボーイになるまでを綴った衝撃的なストーリー)や、こちらで紹介されている「Les Aventures de Swartz et Totenheimer(Joann Sfar(ジョアン・スファー)との共作で「Blake et Mortimer」のブラックなパロディ)」を何らかの形で刊行して欲しいものです(前者の方は雑誌を持ってはいるのですが、願わくばこの衝撃を広く分かち合いたくて…)。

(最終更新日:4月24日)

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