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2005年10月30日 (日)

SPY vs SPY THE COMPLETE CASEBOOK

"SPY vs SPY THE COMPLETE CASEBOOK"
著者:Antonio Prohias(1921-1998)
出版社:WATSON GUPTILL

▼表紙▼裏表紙
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 「SPY vs SPY」は、アメリカは「MAD MAGAZINE」で1961年に連載が開始された、白黒スパイがあの手この手で謀略の限りを尽くして戦い合う、セリフの無い漫画。この本は連載40周年を記念して作られたトリビュート本で、「SPY vs SPY」の漫画に関してのあらゆる情報を網羅した分厚い1冊です。

 ファミコンやゲームボーイでゲーム化されたので、このキャラクターに見覚えのある方は多いことと思います。或いは、ケーブルテレビ等で放映されている「MAD TV」の最後の方で、数十秒のアニメーションが流れているのを目にしたことのある方もいらっしゃるかもしれません。また、ネットのあちこちでは海外の「Mountain Dew」のCM映像が話題になっていました(→こちら)。


 さてこの本、裏表紙が何とも強烈。キューバの指導者カストロ議長の吸っている葉巻には「MAD」誌のトレードマークの坊やのラベルが貼ってあります。いちばん上には「The Cold War May Be Over, But The Lukewarm War Rages On!」(冷戦は終わったかも知れないが、なまぬるい戦争が荒れ狂う!)との一文が。因みにこの本の出版年は2001年、“9.11”の一年前。今ならまた違った文面になったかもしれません。

 この本に収められた当時の「MAD」編集者のコラムによると、作者のAntonio Prohiasは、もともとはキューバのベテラン漫画家。1938年にデビューし、新聞の風刺漫画や「El Hombre Siniestro(英語で言えばThe Sinister Man、Sinisterとは不吉な、意地悪なという意味)」等のブラックユーモア作品を発表し、多くの漫画賞を受賞しました。また、1958年と1959年にはキューバ漫画家協会の会長も務めました。しかし、カストロ及び共産主義者を批判する風刺漫画を新聞に発表したために、カストロの不興を買い、新聞は没収され、人々から非難や脅迫を受け、1960年5月にキューバを出国、ニューヨークに渡りました。そして昼間は衣料品工場で働き、夜は「SPY vs SPY」の第1回の原稿を描き、同年7月に通訳(英語が喋れないから)に娘を伴って「MAD」編集部に持ち込んだところ好評を博し、翌年の1月号から連載が始まったのだそうです。

 「SPY vs SPY」の着想を得たのは、カストロを支持しない者はスパイ扱いされたことに起因したとのこと。また、Prohiasはキューバ時代からサイレント漫画を描いていましたが、そのことによりアメリカで言葉の問題を克服することが出来たとか。ただし、作品を創る上では克服できても、日常生活では英語はあまり喋れなかったそうです。連載当初から3年間、冒頭の煽り文句には、作者がキューバの有名なアンチ・カストロ漫画家でアメリカに亡命してきたことが書いてありました。どういういきさつで煽り文句を廃止したのかは分かりませんが、そういう背景を知らなくても、十分に面白く読める作品だど思います。私自身、過去にこちらで書いたように、この作品にそんないきさつがあったなんて知らなかったですし。


 本書の内容は、以下の通り。
▼漫画、イラスト、写真
・Antonio Prohiasによる「SPY vs SPY」全241話
・「MAD」誌に発表した他の作品
・キューバ時代の漫画作品
・未発表原稿、スケッチ
・グッズ一覧
・他の漫画家による「SPY vs SPY」
▼文章記事(謝辞、Antonio Prohiasの談話や写真を交えたコラム、エッセイ)
・Acknowledgements (Charles Kochman)
・Introduction (Grant Geissman)
・A Cartoonist in Times of Revolution and Censorship(Fabiola Santiago)
・Snapshots of My Father (Marta Rosa Pizarro)
・The Old Pro (Nick Meglin)
・Yin and Yang, Cold War Style (Art Spiegelman)
・The Other Spy Guy (Duck Edwing)
・"Spy vs. Spy" and Me (Peter Kuper)


 この「SPY vs SPY」という漫画、毎回お互いを陥れる策略やメカデザインの手が込んでいて、よくもまぁ毎回毎回、バラエティに富んだおちょくりネタを考えたものだなぁと、そのおちょくりに懸ける職人魂に敬服しました。キューバ時代の作品や、アメリカ時代の他の作品もいくつか載っているのですが、一貫してあらゆるものをおちょくっていました。また、几帳面な作画や没にされたキャラクターへのオマージュのイラストを見ていると、漫画に対する深い熱意と執着と愛情が感じられました。

 また、ギャグ作りへの強いこだわりが感じられたのが、「gray spy」に関するエピソード。白黒スパイの双方を陥れるファム・ファタールとして1962年に灰色スパイが登場するのですが、何回か登場した後、1965年を最後に姿を消します。その理由は「(展開が)ルーチン化してしまい、オチが予測できるようになってしまった」からだそうで、女性キャラがいた方が場が華やぐし読者の気を引くと思うのだけれど(もっとも、gray spyはあまり美人ではないけれど)、「キャラ」よりも「ギャグ」を取るProhias氏のこだわりがカッコいい!と思いました。


 Antonio Prohiasが晩年に体調を崩して以降、「Spy vs Spy」は他の作家によって描かれるようになりました。たまに「gray spy」も出てきます。現在「MAD」誌ではPeter Kuperという方が描いています。ステンシルやスプレーを用いた絵はとても良く出来ていて、特にカラーのものはすごく綺麗なんですが、内容がちょっと残虐過ぎて抵抗があるなぁ…




【2006年11月6日夜・追記】

 先日、Wikipedia「スパイvsスパイ」の項目に、このエントリを切り貼りしてところどころ表記を書き換えたように見受けられる文章が、参照元の記載も無しにUPされたため、この欄に抗議文を掲載しました。その結果、Wikipediaの文章は削除され、執筆者の方からはお詫びのメールも頂いたので、その抗議文は削除しました。

 なので、第三者からの検証が不可能な状態(当分はgoogleのキャッシュに残っているかも知れませんが)ではありますが、それでも、こちらの削除依頼の議論に対して異議を述べさせて頂きます。執筆者の方の「翻案転載に当たるかどうかコミュニティの判断を仰ぎたく」という提案に対して、一部表記を変えている以上、確かに「転載」には当たらないでしょう。しかし「翻案」に当たるか当たらないかについては、明言されずじまいでした。「問題があるとすればシングルソースであると言うことくらい」とのことですが、もし複数のソースがあるなら、私は私のエントリからのソース部分についてのみ抗議したことでしょう。そして、著作権についての議論なのに「表現を細かく見てませんが」というのは一体どういうことなのでしょう。著作権法第二条第1項第一号において定義されている通り、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり、表現を保護する権利なのではないのですか。

 このエントリは著作権法第十条第1項第一号の「言語の著作物」にあたるものであり、第2項「事実の伝達にすぎない雑報」のつもりはありません。また、当エントリから抜き書きされた作者・作品に関する記述に対しても、これが誰でも結果的には同じ記述になってしまうような事実の列記に過ぎないのであれば「ある事実を得るためになされた努力を著作権法は保護しませんから」という意見も成り立つでしょう。しかし、同じ作品・作家について語っても、英語版Wikipediaの記述と当エントリとではかなり態様が異なっています。私は、私なりの感想や考察を書くために原著から選択して翻訳・要約したのであり、その記述や選択において創作性を主張します。だから、このエントリから抜粋して一部表記を変えたかのような文章に対し、その類似性を指摘し抗議したのです。

 しかし、Wikipediaのコミュニティの方々の考えでは、当エントリを切り貼りした文章と内容の類似が見てとれるのに、文面を変えたら新たな著作物が誕生し、参照元の記載の必要は無いという考えなのでしょう。納得できませんが、議論する気はありません。

 当ブログのエントリについては、諸法規・諸慣行に沿った形であればご自由に利用して頂いて構いません(あえて言うまでもないことですが)が、今後、Wikipediaへの利用は一切お断り申し上げます。コミュニティの方々と意見が合わないということもありますが、それ以前に、私は私なりの感想や考察が書きたくてこのブログのエントリを書いているのであり、Wikipediaのような客観性が求められるような記事に部分的に利用されるのは不本意だからです。Wikipedia執筆者の方々におかれましては、このブログで挙げられた原著等の文献を読まれた上で執筆者なりの独自の記述をし、その文献一覧と共に記事を公開すべきなのではないかと思いますがいかがでしょうか。法的拘束力を一切持たないお願いごとではありますが、何卒ご配慮賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

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