2009年7月 4日 (土)

ユリイカ・メビウス特集号

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ユリイカ2009年7月号(通巻568号)
特集 * メビウスと日本マンガ

 当ブログ4月26日付け記事でご紹介した来日シンポジウムの模様や、識者による論文やコメント、詳細な作品紹介と、メビウスに関する情報がギッシリ詰まった一冊。

 5月の来日シンポジウムといえば、明治大学のに拝聴しに行ったものでした。メビウス氏の談話においては、ところどころで二つの要素を挙げて解説するのが印象的でした。曰く、「ブルーベリー」という西部劇というジャンルを何故選択したのかという問いに対して、第二次世界大戦後のフランスにアメリカの文化が流入したことと、逆にヨーロッパ人がアメリカを開拓したという二つの歴史的な関係、また、新しい思想が古い世界を征服する、或いは逆に近代に対して伝統側から抵抗が生じるという二つの側面。曰く、子どもの頃に接した、子ども向けのBDと、大人向けのイラストレーションという二つの世界。曰く、BDの世界の中の、従来からの子ども向けBDと、新たに起こりつつあったハイティーンや大人向けの表現。自分自身の表現と市場や編集者からの要求。自分自身を表現することの喜びと恐れ。等々。

 思えば、それらはペンネームの由来の「メビウスの輪」の両面のような、また、京都精華大学でのシンポジウムで出て来た、一枚絵としての絵画とBDとの違いをどのように意識しているのかの問いに対する答えとして言われた「一本の棒の両端のようなもの」なのかも知れません。ジャン・ジロー名義の作風とメビウス名義の作風もまた然りで、時に異なっているように見えても、その二つはどこかでつながり、一人のBD作家を形作っているのだと思いました。

 ところで、今回の一連のイベントの予告をネットで見かけたとき、京都精華大学 学長室ブログ4月15日付け記事には、企画展のタイトルが「Moebius au pays du Manga」と書いてありましたし、明治大学のシンポジウムのパネラーはユリイカのマンガ批評特集号でよく見かける顔ぶれだし、あくまでも主役は日本のマンガなのかなと思ったものでした。でも、日本のマンガの、とりわけ80年代の重要な作品のいくつかには確かにメビウス氏の画風の影響がありましたし、シンポジウムやインタビューでメビウス氏の語る言葉のひとつひとつには表現者にとって普遍的なものがありました。今後、日本のマンガが発展していく上で、また、外国と交流していく上で、この一連のイベントが良いきっかけとなれば良いなと思いましたし、また、本誌の豊富な記事や論文は充分にそれを補うものだと思いました。

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2009年6月29日 (月)

MORT CINDER T.1 : LES YEUX DE PLOMB

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MORT CINDER T.1 : LES YEUX DE PLOMB
(モート・シンダー 第1巻 : 鉛の眼)
シナリオ:Héctor Germán Oesterheld (エクトル・ヘルマン・オエステルヘル、1919-1978?)
画:Alberto Breccia(アルベルト・ブレッチャ、1919-1993)
初出:『MISTERIX』誌714号(1962年7月)-735号(1962年12月)、『MISTERIX SPÉCIAL』誌(1962年12月)
VERTIGE GRAPHIC社、2002年刊

《あらすじ》
 Ezra Winston(エズラ・ウィンストン)は、ロンドンで骨董商を営む老齢の男性。或る日、“SQUELETTE(スケレット、骸骨の意)”と呼ばれる出入りの男が奇妙な(蜘蛛の?)形をした魔除けのような物体を持ち込む。それをくるんでいた古新聞の見出しには「殺人犯Mort Cinder(モート・シンダー)、今日絞首刑に」の文字が躍る。Ezraの手のひらにその奇妙な形の跡が残る。Ezraの行く先々で奇妙なことが起こる。言葉を交わす相手の顔には同じく奇妙な形が表れ、新聞には同じ見出しが躍り、“鉛の眼”をした3人組につけ回され……。
 逃げまどうEzraは墓地に行き着く。Ezraは墓地の番人に出会い、ここがMort Cinderの埋葬されている墓地だと知る。Ezraは、“鉛の眼”の3人組がMort Cinderの墓を掘り起こしてとどめを刺そうとするのを目撃する。Ezraは3人組を阻止し、蘇生したMort Cinderと共に難を逃れ、その背景にある陰謀に立ち向かうこととなる……。
(英国が舞台の物語につき、登場人物のカナ表記は英語っぽく書きました。)

《感想など(少々ネタバレ有り)》
 アルゼンチンの古典漫画のフランス語版。シナリオを描いているのは前回のエントリで取り上げた『El Eternauta』のH.G.Oesterheld。作画はアルゼンチンの代表的な漫画家の一人であるAlberto Brecciaで、フランス語に翻訳された作品も多く刊行されています。また、今年2009年、米国アイズナー賞の「Eisner Hall of Fame (殿堂入り)」にノミネートされているとのことです(→こちら)。
 本作は、不死の男Mort Cinderをめぐる物語で全2巻の内の第1巻。時空を旅するMort Cinderと、聞き手であるEzra Winstonとの間柄は、『El Eternauta』におけるJuan Salvoと漫画シナリオライター(H.G.Oesterheldの分身)にも似ているような気がします。またその一方で、作画家のA. Brecciaは主人公Ezra Winstonの顔を自身をモデルとして描き、Mort CinderはアシスタントのHoracio Laliaをモデルだったそうです(参考→こちら)。
 A. Brecciaの画風は薄墨を使った凝ったもので、この仏語版は濃淡も再現しているのですが、おそらくモノクロ2階調の印刷だと、ところどころかすれて、あたかも昔の劣化した白黒映画のような怖い雰囲気が出てくるのではないかと思います。A. Brecciaは作品によって画風がかなり異なるのですが、一貫して見る者の恐怖心をかきたてます。個人的には、心に刺さる感じがします。Ezra WinstonとMort Cinderの逃走劇は、画風に加えて演出も恐ろしいものでした。とりわけ骸骨が転がっている地下道の場面で、追っ手の声のこだまかはたまた骸骨が蘇って語りかけるのか分からなくなってくるあたりが……。
 ストーリーの核となる陰謀は、『トワイライト・ゾーン』や『怪奇大作戦』にもありそうな気もするのですが、他者の生きてきた記憶を自分のものとしたい欲望というのは、シナリオライターであるOesterheldの願望が入っているのかどうかが気になりました。また一方で、不死の体を持ち様々な人生経験を経ているMort Cinderには、それだけ負の記憶をも積み重ねている訳で、その悲劇と苦悩は第2巻で描かれている模様です。 オチが綺麗に決まっているので一瞬、理路整然としたストーリーになっているかと思いきや、よく考えてみると冒頭の蜘蛛の形をした骨董品の意味が分からないし(読み落としがあったら申し訳ない…)、“SQUELETTE”と呼ばれる出入りの男や沼地の住人等、Ezra WinstonをMort Cinderへといざなう人物の存在は不条理で、でも不条理であるからこそ、読者である私もEzraと共にMort Cinderに惹き付けられるのかなと思いました。

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2009年6月26日 (金)

『El Eternauta』映画化と、その件に関連して

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 当ブログ2007年6月5日付け記事でご紹介した、アルゼンチンの古典漫画『El Eternauta(エル・エテルナウタ)』の映画化について。

《参考リンク》
▼el eternauta: la película
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 アルゼンチン・イタリア・スペイン合作で、監督・脚本はルクレシア・マルテル(Lucrecia Martel)。2009年に撮影、2010年に公開したいという話だそうです。共同製作に名を連ねる会社の社名・国名・プロデューサー名を列記すると、「K&S Films(アルゼンチン、Oscar Kramer、Hugo Sigman)」「Film-Maker(イタリア、Andrea Marotti)」「El Deseo(スペイン、Pedro Almodovar、Agustin Almodovar)」。「El Deseo」は『オール・アバウト・マイ・マザー(原題:TODO SOBRE MI MADRE)』等で日本でも知られる、ペドロ&アウグスティンのアルモドバル兄弟の会社(公式サイトは→こちら)。また、「K&S Films」のサイト(→こちら)の製作中のプロジェクトを挙げたページ(→こちら)にポスターの画像と「“El Eternauta”, project based on the graphic novel by Hector German Oesterheld.」との文面がありました。

 ルクレシア・マルテル監督といえば、昨年9月の「スペイン・ラテンアメリカ映画祭」(→公式サイト)に来日するとのことだったので、、最新作『顔の無い女(原題:LA MUJER SIN CABEZA)』上映と、その後に続く監督舞台挨拶を見に行ったものでした。

 映画『顔の無い女』の作品紹介は→こちら、youtubeにupされている予告編は→こちら。主人公の婦人は本当に少年をひき逃げしたのかそれとも……というあらすじは一見、心理サスペンス映画かとも思われましたが、私の胸中に去来したのは「ああ、これは“カムフラージュ映画”なのだろうな」ということでした。“カムフラージュ映画”というのは私が勝手に作った用語ですが、由来は当ブログ2006年6月6日付け記事で取り上げた『Camouflage Comics: Dirty WarImages 』というサイト(→こちら)。要は、アルゼンチンの軍事独裁下の出来事の暗喩が込められているのだろうなと思ったのです。果たして、映画の後の質疑応答で、監督自身から自分が育った町で起こった“失踪”についての話が出て来ました。

 アルゼンチンの映画といえば、以前、レンタルDVDで『ブエノスアイレスの夜(原題:VIDAS PRIVADAS)』と言う映画を見ました。こちらも軍事独裁下に起こったことを描いていたのですが、決定的な出来事以外は思わせぶりな描写ばかりで、一体何があったのか、本当は何も無かったのではないかとも受け取れるようなストーリーになっていて、ネットの評判もあまり思わしくないようです。でも、一つ一つの出来事を丹念に追っていくと、何故姉妹は20歳も年が離れているのか、姉の夫の死因は何故あいまいなのか、あの一家は何故医者に負い目があるのか等々、ある程度推察が可能なんじゃないかという気がしてきました。そして、何故もっと分かりやすく描けなかったかというと、それだけトラウマが強いということなのだと推察します。

 『El Eternauta』のシナリオを執筆したHéctor Germán Oesterheld (エクトル・ヘルマン・オエステルヘル、1919-1977に消息不明となり、翌1978に死亡したと言われる、出展は西語版wikipedia)は、政治活動により軍事独裁政権に身柄を拘束されたと言われ、描いた漫画のシナリオが原因ではないと言われています(参考→こちらのブログのコメント欄)。しかし、H.G.Oesterheldを始めアルゼンチンの漫画を理解する際に、政治的な話には触れない訳にはいかないようにも思います。時代は違えど、当ブログ4月17日付け記事で取り上げた、世界初の長編アニメーション映画を制作したQuirino Cristiani(クリノ・クリスチャーニ)についてのドキュメンタリー映画(→公式サイト)の制作スタッフは、バックグラウンドとなるアルゼンチンの政治事件の歴史について学んだということですし(参考→こちら、pdfファイル)、それはどうしても無視できないものに思うのです。

 ただ、政治的な話、とりわけこの件のように大きなトラウマを残すものは、どうしても語りにくいところがあって、現地の人々がH.G.Oesterheldを語るとき、冒頭に挙げた参考リンクにしても、当ブログ2009年4月20日付け記事で取り上げたドキュメンタリー映画『Imaginadores』の英語字幕付きトレーラー(→こちら)にしても、政治的な話は一切出て来ません。それでも、軍事独裁政権に関する話は、近年、色んな人が色んな言葉で語りつつあり、時に映画や漫画に表れたりもしているようなので、日本にいる私にも触れることが出来るものは、極力触れていこうと思います。

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2009年6月23日 (火)

メビウス画「The story of an idea~赤十字誕生物語~」日本語版!

 当ブログ2008年12月9日付け記事でご紹介した、メビウス(ジャン・ジロー)画による、赤十字の創設者アンリー・デュナン(1828-1910)について、そして赤十字社及び赤新月社の誕生から現在に至るまでの活動について描かれた短編漫画、ついに日本語化されたのですね!日本赤十字社のサイトの中にupされていました。

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●【日本赤十字社】寄付・献血・ボランティア|The story of an idea~赤十字誕生物語~(記事)
●日本語版コミックPDF

 タダで、そして日本語でメビウス画の漫画が読めるとは、なんと太っ腹な!全12ページ(漫画本編は8ページ)だから駆け足ではありますが、赤十字社及び赤新月社について知ると共に、そのバックグラウンドの世界史の勉強にもなりますよ。


《7月1日追記》
 今、本家赤十字の紹介ページを見たら、メビウスのインタビュー記事のページが追加されていました(→こちら)。

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2009年6月22日 (月)

「時代と人間」「路上の人」「聖者の行進」

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 図書館で見つけた3冊。堀田善衞(1918-1998)によるエッセイと小説なのですが、スタジオジブリから刊行されているというので、当ブログで取り上げる次第です。堀田善衞という人は、第二次大戦末期に上海に渡り、敗戦後国民党宣伝部に1947年まで留用、1950年代から80年代のアジア・アフリカ作家会議へ参加、1977年から87年までの数回の帰国をはさんだスペイン滞在と、豊富な海外滞在経験を持ち、作品にもその経験から培われたであろう描写と見識に満ちています。この3冊には、1970年代以降に書かれたものが収録されていて、作品のみならず、その構成や作品選択の妙も感じ取れました。

 1冊めの「時代と人間」は、1992年にNHK教育TVで放映された「人間大学」という講座番組のテキスト。「歴史の中の『観察者』」として取り上げるのは、『方丈記』の鴨長明、『明月記』の藤原定家、『随想録』のモンテーニュ、13世紀のローマ法王ボニファティウス八世、18世紀のスペインの画家ゴヤ。各々の残したもから歴史の縦横を読み解くことで浮かび出される人間の営み。戦禍、天災、時代の転換期といった「乱世」における恐ろしさに震え上がる思いがし、また、時代と洋の東西を問わず共通点も見出され、歴史を学び歴史に学ぶ意義を痛感しました。

 2冊めの「路上の人」はスペイン滞在時に書き下ろされた長編小説。ヨナという名の放浪者の目を通して、13世紀のヨーロッパが描かれます。ヨナは路上で生き抜くために多くの知恵を身に付け、多くの人々の出会いから多くの言語を習得し、鋭い観察眼を持ちます。教会や法王庁の組織批判、国家間の駆け引き、信教の自由、信教を貫くことと生きることとの矛盾、ものを知るということを人は如何に渇望するか、そしてそれは如何に危険視されるか……等々、時代も国も隔てた出来事を題材としているのに、日本史で習ったことや現代に起こっていることの中に置き換え可能なものがあるなと思い、人間の営みの根源について考えさせられました。

 3冊目の「聖者の行進」は歴史上の人物・出来事を題材にした作品集。寄せては返す波のように、方々の時代・方々の国々に生きた人々の振る舞いが、作者の手によってよみがえります。栄華を極めたその先は、聖地を求めて辿り着く先は、聖者に盲従して行き着く先は――。ここに描かれているのは遠い過去の出来事のようでいて、今もどこかで起こっている、或いは起こり得ることのような気もして、やはり人間の根源というものについて考えずにはいられません。しかし、それでも人間は希望を持つものだから、そこから学び取って生かすことも可能なのではないか、可能であって欲しい、と切に願います。


《6月25日 追記》
 ところで、この3冊が何故スタジオジブリから刊行されたのかというと、宮崎駿が私淑し、交流があったからなのだそうですね。スタジオジブリ出版部だよりの2003.9.26付けの記事にそのいきさつが書いてありました。また、特設サイトが存在しているのに、今頃気が付きました。
●復刊記念特別WEBサイト 堀田善衞「時代と人間」

 そして、昨年10月には県立神奈川近代文学館にて「堀田善衞展 スタジオジブリが描く乱世。」という展覧会が開催されていたとのこと(→こちら)。堀田善衞の作品とスタジオジブリの世界は、思いの外近いのですね。いつか、アニメーション作品として目にする日が訪れることを期待します。

(最終更新日:6月25日)

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2009年5月27日 (水)

フランスの子ども絵本史

 図書館で見つけた1冊。(だから、写真の一部に色を塗って隠しています。)

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フランスの子ども絵本史
著者:石澤小枝子、高岡厚子、竹田順子、中川亜沙美
発行:大阪大学出版会
(2009年2月刊)
梅花女子大学 児童文学・絵本センターの紹介ページ
大阪大学出版会の紹介ページ


 A4サイズハードカバーに本文424ページ厚さ約3センチのズッシリとした豪華本(試しに重さを量ってみたら、2キロと表示されました)。題名に「フランス」「絵本」と書いてあるものだから、もしかして漫画(BD、バンド・デシネ)のことも取り上げられているかな?と思ってページをパラパラめくっていたら、古典BDの紹介が充実していたので、借りてみました。先日、当ブログにてイヴ・サンローランの「おてんばルル」(→こちら)を取り上げたとき、現地では“漫画”だって言っているのに日本では“絵本”と言い換えていることを指摘しましたが、そのとき実は内心、“漫画”などと称してはオシャレ度が下がってしまうから言い換えるのだろうと舌打ちの一つもしたくなるような気持ちだったものでした。でも本書を開くと、バンド・デシネの背景には豊かな絵本文化の歴史があるのだということを知り、各々の紹介に目を見張る思いがしたのでした。

 本書では、18世紀の大衆向け印刷物を“絵本のあけぼの”とし、トロワの町の「青表紙本」と呼ばれる大衆向けの小型廉価本や、町名に由来する「エピナル版画」を取り上げています。「エピナル版画」の一例でペローの絵物語の図版が紹介されているのですが、4×4コマの絵および各コマの下に説明書きと、既に漫画っぽいフォーマットになっているのが興味深かったです。また、宮廷や貴族の子どものための読み物が民衆に広まっていく様子が多くの図版から伝わってくるのも面白かったです。

 本書はとにかく豊富な図版が魅力的で、何とも贅沢な“目のご馳走”という感じがしました。画像が小さいかなと当初思ったのですが、印刷の鮮明さがそれを補っていると思いました。限られたスペースの中で多くの画像を載せるのは大変だったことでしょう。

 18世紀から今日に至る絵本・絵物語の数々が本書で紹介されているのですが、日本で殆ど知られていないものもあれば、おなじみのものもありました。ラ・フォンテーヌの寓話やジュール・ベルヌのSF小説など、断片的には知っているような気がする作品も、多くの画家によって様々に描かれているのを見ると、あらためて本編を読んでみたくなります。各々の作品・作家の紹介から当時の歴史もうかがえて、単に綺麗な絵をながめるだけでなく、フランスの児童文学や歴史について色々と知るのは面白いことでした。

 本書は「日本で最初の、フランスにもない画期的なフランス絵本史」なのだそうです。また、日本で書かれた研究書ならではとして「子どもの絵本に見る日本」という章が設けられています。紹介されている図版は非常に充実していて、また、描かれている日本の情景も、日本人画家によるものはもちろんのこと(中には藤田嗣治の絵もあり)、外国人画家が描いているものも案外ちゃんとしているのだなという印象を受けました。フランス人の日本への関心というのは、筋金入りなのですね。おそるべしフランス。

 ところで、本書で取り上げられているBD作家は、クリストフ、テプファー、ルイ・フォトン、アラン・サン=トガン、パンション、エルジェ、アルベール・ユデルゾとルネ・ゴシニ。バンジャマン・ラビエは絵本作家として紹介されていました。個人的にはパンションの紹介のおかげで「ベカシーヌ」のアニメ映画(2001年フランス公開)と原作の関係が分かったのが有り難かったです。アニメの設定は原作の次世代の話で、ベカシーヌのかつての奉公先の侯爵夫人の養女であるルロットが大きくなって結婚して生まれた娘のシャルロットを一時的にお世話する際のドタバタ劇なのですね。

 本書は梅花女子大学文学部児童文学科の収集と研究の成果とのことで、大学で長い年月をかけてコツコツと積み重ねてきた成果をこうして拝見出来るのはとても喜ばしいことだと思いました。また、フランス本国における研究書として、児童文学にはフランソワ・カラデック著「フランス児童文学史」、雑誌にはアラン・フールマン著「青少年や子どものための雑誌の歴史」という本があるそうですが、前者は翻訳も出ているとのことなので、いずれ読んでみたいと思いました。

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2009年5月21日 (木)

スペイン(語圏)の漫画本をネット通販でお取り寄せ&雑談

 またしても当ブログの更新が途絶えてしまって、すみませんでした。この時期、そして前回のエントリの続きであれば、今回の話題は当然、メビウス来日シンポジウムの件になるだろうと皆様お思いのことと思います。が、それはまた後日にして、今回は、先日ふと思い立って、スペイン(語圏)の漫画本をネット通販で取り寄せてみましたので、そのご報告をしようと思います。


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 利用したのはスペインのネット書店で「AGAPEA」というサイト。発送に国際郵便小包を使っているせいか、送料が若干お安く感じられました。発送通知のメールが来なかったのでやきもきして問い合わせのメールを出したり(手続きは滞りなくされていました)、商品が梱包されずにそのまま段ボール箱に入っていたり(環境に優しいかも)、一部の本の表紙が若干擦れて汚れていましたが(古くから洋書を買い慣れている人から見れば十分許容範囲なのでは)、すんなりお買い物できて良かったです。

 購入した漫画本のタイトルは、以下の5冊。
·ALACK SINNER VOL.4 ENCUENTROS Y REENCUENTROS (Muñoz / Sampayo)
 アラック・シナー VOL.4 出会いと再会 (ムニョス/サンパージョ)
·HISTORIA DEL BAR VOL.1 EL BAR DE JOE (Muñoz / Sampayo)
 バーの物語 VOL.1 ジョーのバー (ムニョス/サンパージョ)
·LOS VIAJES DE JUAN SIN TIERRA 2 La Isla de Nunca Jamás (Javier de Isusi)
 土地無しフアンの旅 2 ネバー・アイランド (ハビエル・デ・イスシ)
·Las calles de arena (Paco Roca)
 砂の街 (パコ・ロカ)
·MACANUDO #2 (Liniers)
 驚くべき (リニエルス)

 5冊中4冊までは、フランス語版も出ています。アルゼンチン出身のコンビ、Muñoz / Sampayoの作品は、実はフランス語版の方が原書です。最後の1冊のアルゼンチンの4コマ漫画集も、第1巻はフランス語版が出ていることを、いまさっきamazon.frで検索して知りました。だから、スペイン(語圏)の漫画を読むなら、フランス語でかなり事足りそうな気がします。さすが漫画大国フランス。じゃぁ一体私は何でこんな手間のかかることを…。いやいや、表紙カバーの折り返しに載っている推薦文とか、ネットで見かける作者インタビューとか、原語を知っていると良いことがあるんですよ。ちゃんと読み終えるのがいつのことになるやら見当もつきませんが、いずれ感想など書ければと思います。

 なお、上の写真で漫画本を立てかけているのは、100円均一の店で買った金網を軽く折り曲げたもの。安上がりな書見台です。本を開いてページの端を大きめのメモクリップで金網に挟んで固定し、ページとにらめっこしながら、空いた両手で電子辞書を叩いたり紙の辞書を引いたりしています。使っている電子辞書は、CASIOのEX-wordのスペイン語バージョンに別売りのフランス語辞書のCD-ROMをインストールしたもの(2年前に購入)。電子辞書は熟語検索が便利ですね。また、私の機種はスペイン語の単語を変化形(動詞の活用や名詞の複数形)から検索できるのが何より助かります。


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 まだ買ったばかりなのでパラパラめくっている段階なのですが、上記5冊の内、スペインの漫画であるJavier de IsusiのとPaco Rocaの作品に思わぬ共通点を発見しました。Javier de Isusiの「LOS VIAJES DE JUAN SIN TIERRA」シリーズは、主人公が失踪した友人を捜索して中米諸国を旅する物語なのですが、この作品が「Corto Maltese(コルト・マルテーズとかマルテーゼとかマルティーズとかマルテスと呼ばれたり、Maltésと綴られたりするシリーズものの漫画)」の影響を受けていることは先刻承知していました(というか、上に挙げたコマはかなり気合いの入ったオマージュ)。しかし、Paco Rocaの「Las calles de arena」の出だしで、コミックショップにいる主人公が携帯電話の向こうでむくれている彼女へのプレゼントに購入するのがCorto Malteseの等身大フィギュアというのは、ちょっと驚きました。そんなフィギュアが実在するかどうかは不明ですが、スペインにおいては今もなお、このシリーズの人気があるのだなと思いました。日本ではアニメ映画が公開されたものの原作漫画は翻訳も出ず、あまり知られていない「Corto Maltese」ですが、漫画本編の紹介はもちろんのこと、ヨーロッパや南米における影響など、追い続けていきたいものだと思いました。


 何がどこまで出来るか心許ないし、何のためにやっているのか自分でもよく分からないのですが、こうして海外の漫画について調べたり書いたりするのは、なかなか面白いものです。書いていく過程で発見がありますし、書きながら気付くこともありますので、これからもエントリをたどたどしく綴っていく所存であります。発見の一例を挙げますと、「JUAN SIN TIERRA」というネーミングの由来は恐らく欠地王ジョンという歴史上の人物だと思うのですが、世界史の授業を真面目に聞いちゃいなかった身としては、この漫画に出会わなかったら昔のイングランドの出来事など知るよしもなかったでしょう。


《5月23日追記》
 スペイン語圏のネット書店ということで、過去に利用したことのあるアルゼンチンのサイトについても挙げておきます。
Tematika.com
Librería Santa Fe
 随分と以前のことだから記憶が薄いのですが、どちらも1回はメールのやりとりをしました。前者は住所の入力フォーマットが日本の実情と合わなくて変な内容になってしまったために、向こうから問い合わせが来ました。後者は注文してから何日もステータスに変化が無かったので、こちらから問い合わせしたのでした。後者の方は発送に国際郵便小包かDHL等の大手業者かが選べたように記憶しているのですが、残念ながらネットで見かけるアルゼンチンの郵便事情を考えると、送料が高めでも大手業者に頼んだ方が良いかなと思ったものでした。(ただ、更に微妙な問題として、アルゼンチンは本の値段自体は安めなんですよね…)
 念のために申し上げますが、冒頭に挙げたものを含め、これらのサイト紹介の目的はあくまでも日本からの購入体験のご報告といった程度のものであり、別に宣伝の意図はありません。なので、ご質問にもお答え出来ませんし、ご利用はあくまで自己責任ということで、どうかご理解下さいますよう宜しくお願い申し上げます。


(最終更新:5月23日)

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2009年4月26日 (日)

メビウス来日!

 当ブログ2008年12月9日付け記事で、メビウスのスペインでのサイン会風景の動画を取り上げて「こんな風に日本に上陸する日は、果たして来るのでしょうか……?」などと書きましたが、まもなく日本に上陸するのですね!

▼京都国際マンガミュージアム マンガ界の世界的巨匠 メビウスの講演会・企画展 「メビウスの世界」
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●「メビウスの世界」 LE MONDE MOEBIUSIEN - 京都精華大学イベント
●明治大学:TOPICS&NEWS 国際日本学部シンポジウム「メビウス×浦沢直樹+夏目房之介」(司会:藤本由香里准教授)開催


 とはいえ「こんな風に」とはいかなくて、現在日本で翻訳が刊行されていないから、サイン会のやりようが無いのでしょうね(原書を輸入すれば良いのかも知れませんが…)。昨今、いくつかの大学でマンガの講義や制作や刊行が行われているそうですが、大学といえば外国語の専門家も大勢いらっしゃる所。なので、是非とも海外コミックの翻訳も刊行して欲しいと思う次第であります。大学の現場のことなどちっとも分かっちゃいない人間の言っていることなので、見当違いだったら済みません。でも、今回のイベントがきっかけで様々な成果が上がると良いなと思いました。

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2009年4月22日 (水)

雑誌「FIGARO japon」で「おてんばルル」小特集

 今発売中の雑誌「FIGARO japon 5/5号(No386)」で、当ブログ2008年11月11日付け記事2009年4月2日付け記事で取り上げた、イヴ・サンローランによる“絵本”「おてんばルル(原題:La vilaine Lulu)」の小特集が載っていましたのでご報告いたします。識者のコメントとわずかな再録で全5頁と、情報量は少ないのですが、この号はメインのフランス映画特集がおすすめです。特に、6月から公開される映画「サガン―悲しみよ こんにちは―」関連のフランソワーズ・サガンの紹介記事が充実しているのが買いでした。

 「おてんばルル」とフランソワーズ・サガン、実は関係が深いんですよね。スナップ写真が掲載されているように、サンローランとサガンは交流がありましたし、サガンが「ルル」の出版を勧めたという話ですし(ピエール・ベルジェ・イヴ・サンローラン財団のサイトの中の→こちらのページの上から4番目に記事があります)、「ルル」の“絵本”の最後には「親愛し尊敬する ある作家へのオマージュ」なんていう短編が載っているくらいですから。


《4月26日追記》
 「ルル」のTVアニメ、第1,2,4回と見たのですが、何だか原作“絵本”をフキダシ込みでflashアニメ化したみたいな印象を受けました。日本のみの限定放送だそうで、確かに、画面に表れるフキダシは日本語のままですから、海外で放映しようという意図は無いのかも知れませんね。ルルをはじめとした登場人物はフランス語をしゃべっているのですが(白ネズミは何故か英語)、やっぱり全然聞き取れないですねー(泣)。フランス語の字幕も欲しいところですが、日本語のフキダシが原作のままっぽいので、フランスの原作を見れば分かるかもしれません。日本版・フランス版、ともに飯田橋の日仏学院の図書館に置いてあるのを以前見かけたので、また行ってみようかな。今のところ、TVアニメは割と無難なエピソードを取り上げているように思うのですが(あれでも!)、この先どうなりますやら、ちょっと興味しんしん。

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2009年4月20日 (月)

Imaginadores

 「Imaginadores(イマヒナドーレス)」とは「想像する人々」という意味。これらの動画は、youtubeにupされた、アルゼンチンの漫画家インタビューと作品紹介で構成されたドキュメンタリー映画のトレーラーです。

▼TRAILER IMAGINADORES(ご本家バージョン)
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▼Imaginadores - Trailer(ロングバージョン、英語字幕付き)
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《参考リンク》
●Imaginadores Filmmaker Interview(youtubeより、監督へのインタビュー1)
●Entrevista a Daniela Fiore - Imaginadores(youtubeより、監督へのインタビュー2)
●IMAGINADORES - Eldocumental de la historieta argentina(公式サイト)
●IMAGINADORES(公式ブログ)
●Imaginadores - cinenacional.com(アルゼンチンの映画データベースサイトより)

 アメコミやバンド・デシネの世界で活躍するアルゼンチンの漫画家は多く、また、欧米で翻訳される作品もあり(アメリカでの翻訳は少ないかも)、中には「サイバーシックス(Cybersix)」のように日本・カナダ合作でTVアニメ化される作品もあります。原作漫画の作画をされたCarlos Meglia(カルロス・メグリア)は残念なことに昨年50歳の若さで亡くなられたのですが、上記トレーラーの冒頭には生前のインタビューが出て来ます。でも、そうやって海外で紹介されるものだけが名作という訳ではなく、アルゼンチン国内で熱く愛好される作品も多々あり、そこに興味が惹かれるのです。

 このドキュメンタリー映画の中では、漫画作品を紹介するにあたって、原画のみならず、このために製作されたアニメーションがところどころ挿入されているのが面白いです。英語字幕付きロングバージョンの最後に登場する「Cybersix」のは、TVアニメとは別なものです。また、上で引用した画像の、タイトルの横でおびえている中年男性の由来は「Las puertitas del Sr. López(ロペス氏の小さな扉)」という作品。シナリオ:Carlos Trillo(カルロス・トゥリージョ)、作画:Horacio Altuna (オラシオ・アルトゥーナ)で、作品紹介は→こちら。映画化もされているそうで、読んではみたいものの入手が難しそう(泣)。Carlos Trilloという人は「サイバーシックス」の原作漫画のシナリオを書いている人でもあり、とにかく多作でひねったストーリーでラテンアメリカを描いている人という印象があります。

 トレーラーだけでは情報量も少ないのですが、発見もあります。英語字幕付きロングバージョンには、Héctor Germán OesterheldとAlberto Brecciaについて語っている映像が出てくるのですが、両者の読み仮名は、スペイン語読みではOesterheldは「オエステレルド」、Brecciaは「ブレクシア」ではないのかと思っていたところ、耳をそばだててみると、それぞれ「オエステルヘル」「ブレッチャ」と言っているように聞こえました。前者は父親がドイツ系移民だからイレギュラーな読み方をするのかと思ったのですが、後者はウルグアイ出身なのにイタリア語読みっぽく発音しているのが意外でした。

 また、アルゼンチンで「漫画」を表すスペイン語は「historieta」で、その発音は「イストリエタ」となる筈なのですが、現地の漫画家の中には「イストリータ」と発音している方々もいらっしゃる模様…。どこまでが「一般的な用法」で、どこからが「なまり」なのかは個別に精査しなければなりませんが、近年、ネットに動画や音声がupされるようになったおかげで、人名や単語をカタカナで表記する際に大いに役立つと思ったものでした。

(最終更新日:4月24日)

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